Riisa24

マンチェスター・バイ・ザ・シーのRiisa24のレビュー・感想・評価

3.9
ドラマチックな展開は無い。
静かに変動するリー・チャンドラーの生活があるだけ。
過去の出来事に苦しみ続けるひとりの男が描かれるだけ。
でも、それに凄く心を打たれてホロホロと泣いてしまう、そんな映画。
現実にも居そうな絶妙な闇感。
ある種の赦しや救いがこの物語の中にある。

シリアスな題材のようで意外とさっぱりしていて、何より鬱になりきらないのは青味がかったフィルターや賛美歌、クラシック、港町の蒼白い景色など、視覚と聴覚で捉えられるものが本当に美しかったからだと思う。
儚く脆弱な主人公にマッチする曇天と、悲劇的な彼にそぐわない高尚なメロディが不思議とバランスを保っていて心地良かった。

個人的に一番印象的なのは、リーが暴れてボロボロになった時にジョージ(友人)やパトリック(甥)が無言で側にいたこと。
説教臭い台詞もカウンセリングもなく、若干困惑した態度でリーを見つめていたのが凄くリアルで、大衆商業的な雰囲気が微塵も無かったことが良かった。

また、カメラ視点が独特で、まるで自分が透明マントを被って他人様の事情を覗いているようだと思ったのも印象深い。
ナメるようなカメラの動きとか人の目の高さに視点を置いたりだとか、自分がそこにいるかのようなカメラワークが感情移入しつつも第三者ポジを維持できる所以だと感じた。
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