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マンチェスター・バイ・ザ・シーのuedashinjiのレビュー・感想・評価

4.1
意外と笑える。

ジョン・クラシンスキーのアイディアを、いろいろあってケネス・ロナーガンが形にしたそうだけど、ロナーガンは「アナライズミー」の脚本家として世に出た人で「ユーキャンカウントオンミー」も、ローラ・リニーがまさか、ああ出るとは、という展開があって、もともとコメディ的作劇の人なんだと思う。

で、マンチェスターバイザシー。出来事ベースでは重いけど、劇の作りは、重くない。むしろ、割と軽い。

まずは謎。

主人公は、パッとしない男。でも、やたらモテる。ともかく女たちをひきつけてしまう(これ、コメディの設定)。ところが、彼はまったく幸せではない。

インサートされる過去シーンでは、彼は快活な子供っぽい若者。大人である自身の兄より、小学生の甥に近い人間性。そして、美しい妻と子供たちがいる。

彼にいったい何があったのか???という話なんだけど。

笑えるところ。

主人公の誇張されたモテぶりが可笑しい。彼は集合住宅の清掃修理スタッフを生業としているのだけど、トイレの詰まりを抜きに行った先で、モテる(トイレをがっぽがっぽやってるときに、その部屋の女性が「あの彼がきちゃったのよ〜〜〜」と友だちに電話をしてるw)。お兄さんの葬式の場面で、死んだ兄の主治医にうっとりと見上げられたりとか。

残された兄の子が高校生になってるんだけど、この子が、主人公の素質を受け継いで、学校でまあモテてる(この繰り返しもコメディの発想)。この甥っ子、主人公から見たら、かつての自分なわけで、主人公はいろいろ意見や感想があるだろう。ところが、そこに現れた甥のガールフレンドの母親に、あからさまに関心を寄せられてしまう(このシングルマザーの人はかわいそうだった)。

あと、兄の余命が明らかになるシーンでの、兄嫁のひどさ、ずっと背中を見せてた主人公の反応、それに対する家族の反応とか。なぜか駐車した場所がわからなくなるとか、いろいろ。


〈〈〈〈以下ネタバレ〉〉〉〉



で、まあ、ある事件のあったことが明かされて。

そりゃ暗くなるのもしょうがないよね。そういう深刻な話だったのか、これは、となる。

あの幸福な場面で子供を次々だっこするのを見せておいて、ボディバッグのくだりはないよなー、とか。ラスト近く、彼が子供の夢を見る場面を、主人公にとっての救いにしちゃうのは軽いかなーとか(でも、救われるよね、夢でもあの子たちにまた会えたらさ)(夢の知らせが、子どもとしても父は責めてない、というフォローになってる)

音楽の使い方とか、絵葉書的風景カット長すぎとか。いろいろバランスを欠いた監督とは思う。本質的に脚本家なんだろう。

ミッシェル・ウィリアムスの、見せ場の「愛してるの」は、よく書いたと思う。

そして、その直後のシーン、この主人公が許されそうになると暴れてしまうという反復、人物像ロジカルによく描けてる。

人生のぜったい取り返しのつかない悲惨を、ユーモアをもって語ることは、野心的な試みで、あるていど、成功していて、笑って泣けるいい映画だと思うのだけれど、作り手の意図が「感動作」への野心にあるように見えるとき、ものすごくグロテスクな映画にも見える。
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