mh

菊とギロチンのmhのネタバレレビュー・内容・結末

菊とギロチン(2016年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

廃れてしまって久しい日本の芸能――女相撲興行と、関東大震災にまつわる二つのトピック――朝鮮人虐殺と”主義者”弾圧を掛け合わせた野心作。
タイトルになってるギロチン社のほか、
・ボル派(ボルシェビキ派)
・十二階下(浅草・凌雲閣の近くにあった飲食店街=私娼窟)
・アパシュ
・主義者
・リャク、掠屋
など、ググらんとわからんような単語がバンバン出てくる。
アナキストが企業をゆすって活動資金を得ることをリャクと呼んでていて、掠屋とは志を失った連中――いわゆる会社ゴロのことらしい。掠屋はその後、時代を経て総会屋になっていくことことだ。
東映やくざ映画「暴力金脈」を見てたので、その始まりという意味でも興味深かった。
時代考証がしっかりしているのも特徴で、女相撲興行の再現は微に入り細を穿つ。大相撲に敬意を表して横綱がいないので、最高位は大関とのこと。
力士同士が四股名で呼び合うのもいいね!
新選組が喧嘩したのは女相撲じゃなかったけど、明治大正のころはああいった興行グループがいくつもあって、全国を巡業していたとのこと。
当時の興行界のほとんどがそうであったように、社会的弱者のセーフティーネットになっている様子も余すことなく描いている。
普通の映画では省略されがちな、勧進元(歩方)と興行社の関係も描かれてた。
法的な後ろ盾がない在郷軍人会の微妙な立場は初めて見たかも。えばり散らしても所詮は自警団。現役警察から嫌味をいわれてもいいかえせないプロットが素晴らしい。
その在郷軍人たちが朝鮮人虐殺を率先して行ったという筋書きなんだけど、これはかなり的を得てそう。
日本人は基本極悪だからそこらへんの帝都市民が手を下したという映画「金子文子と朴烈」で描かれた関東大震災における朝鮮人虐殺にはなかったリアリティがあるように思ったけどこのあたりは見るひとによって意見が分かれそう。当然のようにアマゾンレビューは荒れている。
「俺がやったわけじゃないけどごめん」というセリフも自然に聞こえた。物議を醸すことが分かっているのにこのセリフを残したスタッフをたたえたい。
在郷軍人たちのいいぶん、ロシアと戦ったけど「なんのためだったのかわからない」というロジックはわからなかった。悪いやつにもそれなりの理由があるという作劇は少々古いと思った。レイシストはレイシストってだけで十分な罪と思う。
爆弾投擲もキャラとの整合性が取れてない気がしてひっかかる。
ただ、それらを補って余りある勢いと面白さがあった。
なにかに取りつかれたかのように天皇万歳を繰り返すのはリアルじゃないけど素晴らしい誇張だった。
あと、東出昌大の演技がひどかった。
面白かった!
mh

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