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菊とギロチンのringrintaroのレビュー・感想・評価

菊とギロチン(2016年製作の映画)
3.2
kbcシネマ の特別上映(前売り1700円!当日2000円!)で「菊とギロチン 」を鑑賞!
大杉栄 の虐殺に対する抗議のテロ行為を繰り返したアナーキスト集団‘‘ギロチン団’’と女相撲という二つの実在した題材を基にした朝鮮人と女性への差別を扱った政治色の強い映画だが、これは一種の青春映画として作られている。
この作品は多くの人に観て欲しい。とにかくテーマが素晴らしい。
が、一方で「残念な映画」とも感じてしまう。
残念と感じてしまう理由は二つあって、全体的に低めな演技レベルと、作り物感の拭えない演出や構成にある(これは後半に書こう)。
◆Story
時代は、大番狂わせを演じた日露戦争から20年近くが経過した関東大震災直後。
テロに失敗し追われる身となったギロチン社の中濱鐡(東出昌大 )と古田大次郎(寛一郎 )は、逃亡先で女相撲を見学する。
女相撲は当時からあまり知られておらず色物として扱われ、性的なアピールで客を集めようという向きもあったため、中濱と古田らもそのような期待を持っていた。しかし真面目に相撲に取り組む彼女たちに興味を抱き、彼女たちに取り入ろうとする。
中濱は朝鮮系の十勝川(韓英恵 )、古田は暴力夫から逃げてきた花菊(木竜麻生 )と互いに惹かれ合うようになるが、十勝川は朝鮮系であり、花菊も暴力夫から逃げてきた、いわゆる‘‘訳あり’’の身だった。
彼女たちの多くは、必ずしも望んで相撲をとっているのではなかったのだ。
四人は、風紀を取り締まる警察、そして自警団と対立しながらそれぞれの自由を求める。

タイトルの「菊」は女相撲の力士である花菊と、もう一つ天皇制を象徴している。
要するに、差別とは天皇を頂点としたヒエラルキー構造の産物という昔ながらの左翼の(おそらく一部の)人たちの思想だ。
鑑賞前に片耳に入ってきた情報から「関東大震災時の流言飛語に端を発する朝鮮人虐殺がテーマ」と解釈していたが、この解釈は少し間違っていた。
朝鮮人(併合当時ではあるが)差別を扱ってはいるが、関東大震災における朝鮮人虐殺は、作中に登場する虐殺の実行犯である自警団の団員たちの心の奥底にある、罪の意識を強く封じ込める為に必要だった「朝鮮人絶対悪」の呪文として扱われている。
自警団の面々は、番狂わせの勝利を収めながらも戦果の上がらなかった日露戦争の帰還兵であり、人々は彼らをよく思っていなかったようだ。
彼らは「汚い仕事」も任される。
この作品には、女性としての生き辛さ、朝鮮人としての生き辛さと同時に、自警団の生き辛さも描かれている。
しかし、この自警団についての描き方はかなり不満。(僕自身は)予想もしてなかった一番複雑な心情を持っていながら、それを自警団に直接語らせてしまっていて、彼らの視点から描かれたものが一切ない。
3時間超の映画なのに!?

他にも勿体ないところはいくつもある。
ギロチン社の面々はテロリスト集団であるにも関わらず青臭い。青臭いのは良い。若いんだからそうなんだろうし、それ自体にはある種のリアリティーがある。
が、ギロチン社の面々が、歴史のどの時代にいるどういう人々なのか、というのが歴史に疎い僕には伝わってこなかった。
ロシア革命の契機となった「血の日曜日事件」を描いた『ロシア革命前史の研究』(西島有厚著)という研究書を読むと、デモの主導者であるゲオルギーガポンの心情の変遷を非常にリアルに感じる事ができる。それはガポンが、歴史のある地点、当時の過酷な社会情勢の中にいる存在であることが手に取るように分かるからだ。
しかし、この映画にはそういう部分が足りないと感じた。

他にも「これ時代考証とかそういったものが甘いんじゃないか?」と感じてしまうシーンが少なくなかった。
これは悪い意味で現代風の「青春映画」な感じで、当時の人の発想が分かるシーンが少なく、このまま現代劇にできてしまいそう。時代性を感じさせる演出が足りないように感じる。
ここ最近カズオイシグロ『浮世の画家』を読んでるが、他にもこのノーベル賞作家の『日の名残り』など彼の作品には当時の世相など歴史的な意味合いなど掴む為に相当数の資料を読み込んでいると思う。
「菊とギロチン」も、テーマに沿った時代性みたいなものをもっと大事にして欲しかったな、と。
自警団の件以外にも、製作側が言いたいことを登場人物に直接言わせてしまうシーンが散見されるし、朝鮮系である十勝川関に「天皇陛下万歳!」と言わせてしまう展開もワザとらしいし、最後の女相撲の面々と警察との乱闘(これも公権力と被差別者との対立を表している)などはとってつけたようで、こういった演出や構成はどうしてもすんなり受け入れられなかった。
今村昌平 (深沢七郎 原作 )『楢山節考 』は棄老伝説を題材にした凄い作品だが、例えば「命はかけがえのないものだ!」みたいなことは言わない。
人種差別や性差別というテーマ自体はすごく興味があるし、これほど重い題材をある種の青春映画として成立させる力技もすごい。
が、映画としては「勿体無い」という感じを随所で受けてしまった。
とはいえ、こういった題材を扱っただけで大拍手。