まさかの実話ベース。インディアン居留地であるウインド・リバー地区で起きたネイティブアメリカン少女の連続殺人事件を重厚に描く。
遺体の凄惨な様子からめぐらせてしまう最悪な想像は作中で明確に現実として突きつけられる一方、背景に存在している差別意識などの構造的問題については実は直接言及されていない。
むしろ辛酸を舐めているであろう地区の人々は常に何か押し殺しているような態度なので、鑑賞者は終始察知する感性を試されることとなり、それが「当事者意識を与える」という作品の目的と合致している。そしてジェーンというキャラクターと共に想像力の欠如も追体験するという演出もあるため、「知らなかった」ことへの教訓は否が応でも残ることとなる。
そのうえで本作が白眉なのはサスペンス的引きつけを保持し続けていること。観てもらえなければ元も子もないを解消するために観客を離さない引力とifのカタルシスを実現しつつ、エンタメ過剰にならないバランスにも配慮できている印象は作り手の品格による結実だと思う。
絶望に対して真っ向に立ち向かう姿勢には頭が下がる。「抜け出せる道があったじゃないか」と自暴自棄な原住民の若者に叱責しつつ強く静かに寄り添う主人公はその象徴であり、渋くてたまらなく魅力的だった。