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ウインド・リバーのKanaのレビュー・感想・評価

ウインド・リバー(2017年製作の映画)
3.0
雪山に囲まれ孤立した町で消えていく少女たちは、今も深い哀しみを昇華することなく雪の下に埋まっているのかもしれない…。

この映画は性犯罪と先住民居住区の孤立問題を扱う社会派ドラマというわけではありません。
もちろんメインメッセージではあるのだけど、基本的にはサスペンスミステリー仕立てで、一つの事件を軸にストーリーは進み、あくまで事件の背景として、そこに暮らす人々の人生に密接に関わる様々な問題を出来るだけ偏見のない形で取り扱っているように感じた。
偏見のない形というのは、誰かの生き方や考え方を否定することのないように…ということなのかなと。
自然の厳しさ、孤立社会、国から与えられた保留地、治外法権のような状態など、それをメインに描いてしまうとものすごく大きな問題で、自分には関係のない遠い世界の話のように感じてしまう気がします。
けれど被害者遺族の心の問題や、家族の形、登場人物一人一人の心情を表情や行動で丁寧に描いているので、感情移入して物語に入り込んで、自分事として想像したり考えることができる。
日本でも田舎の方が結婚出産が早いとよく言いますが、その理由が「他にすることがないから」というのは現実的にある話。
都心の方が出生率が低いのはやっぱり、仕事や趣味など迸るエネルギーを向ける先が他にあるから。
だから、何もないから、「仕方ない」なんてことはあり得ないけれど、やっぱり環境が影響しているのも事実で、先進国の代表であるアメリカで、豊かな自然の多い観光地のワイオミングで、今もなお罪のない人が傷付くことを取り締まりきれない闇があるということは、他人事ではないんだなと思わせてくれる作り方でした。
昨年スリービルボードを見た時には激しい怒りを覚えましたが、この映画は怒りよりも哀しみや虚しさが強い。
でもその閉塞感をタフで真っ直ぐなFBI捜査官の彼女が取り払ってくれる。
決して強いわけではないのに怯むことなく突き進んでいく姿はいろんな人に勇気を与えるし、部外者である彼女が遠慮なく正義を貫くことで、諦めていた周りの人達の目線が変わっていく様がまた、作り手の伝えたかったメッセージなのかなと思いました。
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