みんと

ダムネーション 天罰のみんとのレビュー・感想・評価

ダムネーション 天罰(1988年製作の映画)
4.3
タル・ベーラ監督が作風を確立させたと言う記念碑的初期作品を鑑賞。

なるほど!『サタンタンゴ』を観たっきりにも関わらず、見事なオープニングに一気にタル・ベーラ・ワールドに引き摺り込まれる。
まるでタル・ベーラ写真集を捲るかのように2回観た。(尺も普通サイズだし笑)

荒廃した鉱山の町で、不倫相手の歌手の部屋を訪れたものの追い返されたカーレルは、行きつけの酒場へと向う。酒場の店主から小包を運ぶ仕事を依頼されるが、町を離れたくない彼は、歌手の夫にその話を持ちかけるのだった……。

滑車、雨、野良犬、霧、煙、後ろ姿、アコーディオン、ダンス、赤ちゃんの泣き声…

いや~もう全てにソツがない。作品を観る限り完璧主義で神経質、職人気質な印象をビシビシ感じる。

お得意の長回しに、測ったかのような平行又は垂直、或いは奥行のある構図。
ゆっくり横移動するカメラ、ゆっくり引いていくカメラ、じっくり固定したカメラ…
見入る、魅入る、呼吸するのも忘れる。

監督の美的センスが全シーンに溢れかえる。
恐ろしく精度の高い映像に唸る。
緻密な音響設計にも唸る。
もはやストーリーなんてどうでも良くなる。

常に足元が濡れていて、決してぬかるみから這い出せないかの世界観は、この世の生き辛さや絶望感を感じひたすら重苦しく居心地が悪い。
そのくせ、映像然り、哲学的で詩的でもある台詞然り、それらを調和させるかのように美しい。コントラストが見事に効いてる。

印象的なシーンは山ほどあるけど、中でもお気に入りは不倫相手の歌唱シーン。
何度も巻き戻して聴き入った。痺れる!

そもそも冒頭からひたすら滑車が往復するシーン、主人公が髭を剃るシーン…と、全てが印象的で意味深。

そして、何度も登場し嗅ぎ回り彷徨う野良犬こそが主人公が置かれる状況そのもの。
極めつけ、ラストで吠え合うシーンは最も印象的で今作を象徴する名シーンだと思う。一歩間違えたらと思うと緊張感も桁外れだった。

抽象的な内容や余白の多さゆえ、登場人物たちの明確な心情を汲み取れた感覚は薄い。しかし、雄弁に語る映像から感じ取る心地良さのようなものが確かにある。

もっとも、物語そのものより美しいショットに感動し心を揺さぶられる作品には違いない。

久々に、またしてもタル・ベーラ作品にとんでもない映画体験をさせてもらった。
みんと

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