ヤマメ

田園に死すのヤマメのレビュー・感想・評価

田園に死す(1974年製作の映画)
3.9
ノスタルジーの中に眠るトラウマ的記憶


寺山修司の作る世界はいつもどこか壊れている。
この作品も例に依らず、人が本能的に不快を覚えるような違和感を何度も描き出す。

畳の裏側に広がる恐山、風船のように身体を膨らませた女、柱だけの家で仲睦まじく寄り添う男女、川を流れる真っ赤な雛壇。
そのすべてが狂っていて、しかしどこかノスタルジーな思い出を呼び起こす。

その懐かしさは恐山の荒々しい岩場でも、青空の下のうら寂しい田園でもない。
過去を思い出す人間の記憶の歪みに潜む、抽象的なトラウマ感情の具現化に対する郷愁なのではないかと感じた。

なぜこの映画は恐ろしいのか。
それは人の感じる「トラウマ」が目に見える形で表されているからだと思う。

展開は突飛に切り替わり、まるで夢十夜のようにぐるぐると場面が変わる。
しかしその映像のすべてが恐ろしく、懐かしい。
観たこともないような映像はきっとどこかで経験したトラウマを表していて、人は本能的にそれを思い出すから、この映画は恐ろしいのではないか。

それは子供の頃に考えていた「恐いもの」だったり、大人になって覚える「生き辛さ」だったりする。
そんなトラウマの内の何かが、この映画の中には隠れている。
それを無意識の内に感じ取って、この映画を怖いと思ってしまうんじゃないだろうか。

難解な映画だが、観賞後は老いた両親の居る故郷に帰ったようなどうしようもない寂しさを覚えた。
東京のど真ん中で年老いた母と食う夜食の味はどんなものなのだろうか。
そんなもの一生知りたくはない。
心底そう思える映画だった。
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