海苔

淵に立つの海苔のネタバレレビュー・内容・結末

淵に立つ(2016年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

画面はオルガンを弾く娘の場面から静かに始まる。町工場の家族、無口な夫、地味で家庭的な妻。どこか昭和のようなセピア色の古い空気が通奏低音として流れ、それが八坂の不気味さと共鳴しながら、物語は単調にリズムを刻むメトロノームのように粛々と進んでいく。
八坂の底知れなさを感じさせる丁寧な物腰、人格。河原でいきなり豹変してすごむ場面の迫力は凄まじい。荒々しい男の部分が次第に露わになっていき、最終的には蛍を手に染める。この一連の流れはある種のサイコパスものとしてかなり見応えがある。
しかし、実はこの映画には八坂は前半の半分しか出ていない。後半は、グロテスクで真に迫る蛍の姿と、ヒステリックに壊れた彰江のふるまいにただただ圧倒される。それでもそこには常にあの男の影がある。その不在の存在感からは逃れることができない。
利夫たちの家族は一般的な今風の家族像とは少し離れたところにあり、この作品から、監督が意図していた現代の家族という繋がりのもろさという含意はあまり感じられなかった。しかし、ささやかな幸せが一人の男によって崩壊していく様は美しさすら感じさせた。ラストまで、何の救いもないディストピアな作品。心が冷え切る、現代版氷点をここに見た。
海苔

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