えにし

午後8時の訪問者のえにしのレビュー・感想・評価

午後8時の訪問者(2016年製作の映画)
4.1
救えたはずの命を救えなかったという事実。それが医者にとっては屈辱であり、絶望であり、悔恨の極みであろうことは医者ではない俺にも想像に難くない。あの時ドアを開けていれば——。結果論と言われてしまえばそれまでなのだけど、その結果論に心を蝕まれ続けていくことが"後悔"であり、その侵食から逃れたいというエゴと、せめて魂だけでも救いたいという憐憫が主人公ジェニーを走らせる原動力となる。もう誰ひとりの命も取りこぼさない、もう差し出された手を振り払うことなどしない——。昇進を棒に振り、診療所を寝床にしてまで患者と向き合うスタンスをとったジェニーの決意は、医者という職業の聖性から来るものではなく、ひとりの人間としての矜持がもたらしたものなのではないかと思う(そう思いたい)。ドラマチック要素がまるで排除されひたすら客観に撤するカメラ。俺は人間には善性も悪性も存在しないとかんがえているんだけど、此度は人の善性を信じたい、と思わされてしまった。
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