一人旅

エリザのためにの一人旅のレビュー・感想・評価

エリザのために(2016年製作の映画)
4.0
第69回カンヌ国際映画祭監督賞。
クリスティアン・ムンジウ監督作。

『4ヶ月、3週と2日』(07)でカンヌを制したルーマニアの鬼才:クリスティアン・ムンジウ監督による心理葛藤劇で、一人娘を案じる父親の行動を通じて人間の弱さとエゴを提示しています。

英国留学を控えた一人娘:エリザが暴漢に襲われるという痛ましい事件が発生、医師である父親:ロメオは事件により精神的ダメージを負った娘が高校卒業前の最終試験に合格できるよう警察署長や副市長に不正な根回しをするが―という心理劇で、娘が試験をパスできるよう独断で奔走する父親の姿を最愛の娘や愛情の冷めた妻、子持ちの愛人との関係性と共に描いています。

娘に対する愛情の強さから、各方面に不正な交渉を持ち掛ける父親の奔走を描いた作品で、娘から頼まれてもいないのに半ば暴走気味に娘を窮地から救い出そうとする父親の姿が真に迫っています。父親の一連の行動は娘への愛情がその出発点となっていますが、父親の思いだけが独り歩きしてしまっていて、家族ですらもそうした父親の行動にはついていけない状態となっています。

本作は、娘に対する父親の愛情が親の“エゴ”として作用してしまうことを示していて、最愛の一人娘のことを第一に考えているように見えて実は娘の気持や考えには目を向けていない父親の一方通行な愛情とそれに基づく単独行動の顛末を描いています。愛情はときに人間の心の弱さとエゴを引き出す要因になり得ることを提示した心理葛藤ドラマの力作で、医者なのに狭苦しい団地暮らしである点に東欧ルーマニアの厳しい経済状況を窺い知れます。
一人旅

一人旅