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エリザのためにのmeltdownkoのレビュー・感想・評価

エリザのために(2016年製作の映画)
4.5
セックスにまつわる罪がセックスにまつわる罰の呼び水となり、その傷跡がさらなる罪を連鎖させていく。これらの罪は、結局のところ娘を所有物と見なしそれ以外の人間に対しては事情を斟酌しようとしない父の傲慢さにその源泉があったように思われるのだけど、その傲慢さもルーマニアという国の腐敗したシステムに端を発していると考えると、父が悪の人で母が善の人であると単純に切り分けることもできず、母の善性を支えたものが何であったのかという父の問いかけにはむしろリベラリストの論理すらをも読み込んでしまう始末である。父は娘を所有物ではないひとりの人間とみなすことで逆説的に娘を取り戻し、またその傲慢さを捨てることで自宅への投石はおそらく止むのであろうが、そこでタイトルの "graduation"(原題 "baccalaureat" がルーマニア語においてどういうニュアンスを持つかは知らないが)が娘の高校卒業を指すと同時に、父のある種の卒業をも意味しているということに気付くのである。
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