猫脳髄

ヤコペッティの大残酷の猫脳髄のレビュー・感想・評価

ヤコペッティの大残酷(1974年製作の映画)
3.7
「世界残酷物語」(1962)以来のヤコペッティ&プロスぺロ最後の共同作品かつ、ヤコペッティ最後の監督作品である。完全フィクションに転回した前作「残酷大陸」(1971)からさらに推し進め、18世紀の啓蒙思想家ヴォルテールによるアンチ・ユートピア小説「カンディード」を下敷きにしつつ(※1)、フィクションによってふたたび「世界残酷物語」に帰還したという集大成的ブラック・コメディである。

楽天家の主人公カンディードは、相思相愛のクネゴンダ姫との関係を主君に咎められて領地を追放される。そこから姫を追い求めてのカンディードの苦難の旅が始まる。途中で知り合った黒人の召使とともに、戦に乱れる世界を放浪するうちに時空が歪み、現代ニューヨーク、アイルランド、イスラエルと紛争地帯にどんどん入り込んでいく。神の万能論を批判する啓蒙主義文学と、現代の紛争地域、享楽的な奇習・習俗の取材経験を織り交ぜ、得意のキッチュなエログロ表現で味つけする。

同様に、一種の啓蒙主義作家であるサドを下敷きにしたピエロ・パオロ・パゾリーニ「ソドムの市」(1974)と製作時期が重なるうえに、両者が用いる表現の類似と強烈なカウンター性を感じるのはとても興味深い。もっとも、ヤコ&プロの場合は、これまでの作品群やキリスト教的図像からのアイディアの引用に満ちた一種のポップアート性(※2)を感じる。このあたりを掘り下げていくとなかなか面白そうなムーヴメントが見えてきそうである。

※1 クリスチャン・マルカン「キャンディ」(1968)も「カンディード」に依拠している
※2 同時期にアンディ・ウォーホルが「悪魔のはらわた」(1973)など、ホラー作品の製作に熱中していたのも示唆的である。同じくクロヴィス・トルイユなどの一見キッチュな残酷絵画なども検討の余地がある
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