みゅうちょび

ハクソー・リッジのみゅうちょびのレビュー・感想・評価

ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)
4.0
戦争の凄惨さや狂気、その虚しさを描いた映画は数あれど、ここまで感情移入できたことはないかもしれない。ものすごい臨場感を感じた。(そんなに戦争映画は観てないけど。。。)

多分それは、主人公が戦場へ赴くまでの過程が、戦場に行くという感覚からかけ離れていて(私自身もそうであるように)いざ戦地へ行って、徐々に緊張が高まる中、戦場までの道行きの途中に撤退してきた先陣の死体の山がトラックに積まれて戻る様子や負傷者たちの虚無の表情などを見るにつれ、鑑賞しているこちらも戦場に向かう若者たちの感じ得る恐怖を感じ、否応にも狂乱したその戦いの中に投じられ、一瞬にして命を落とすものたちの姿がを目撃する。それがあまりにもリアルで、考える余地など観る側にも全くないからだと思った。

メル・ギブソン監督、凄い。。。。

戦闘機や戦車が登場しない、まさに肉弾戦。戦争で人は人で無くなる。。。まるでただのゲームの駒のように次々と肉片と化し飛び散って行く。

主人公の青年デズモンド・ドスは、そんな中にいて、己の役割である衛生兵として、1人でも多くを救い出す為に奔走する。

映画の前半では、彼が最愛の女性と出会い愛を育みながら、人を助けることへの喜びに目覚めて行く姿、戦争での心の傷を癒せず愛する家族に乱暴ふるってしまうものの、息子たちの入隊に強く反対する父を制しても、国の力になりたいという固い決意を持って陸軍への入隊志願に至るまでを、そして、入隊を果たすも、良心的兵役拒否者であることで銃を持たないことを断固主張し、挙句には軍法会議にかけられるも、なんとか希望した衛生兵として銃を使わず戦地へ行くことを許されるまでが丁寧に描かれている。

これらが丁寧にえがかれているので、観る側はこの青年に感情移入しやすい。
けれど、誰がみても無謀としか言いようがない、武器を持たずに戦地へ行くという彼の決意が一体なにからくるものなのかは計り知れない。

時にただの駄々っ子のようにも思える彼の行為だが、自分を殴った仲間を上官に売らない姿勢など、彼が決して未熟な思いで行動する人でないのは見てわかる。彼は愛する女性から贈られた小さな聖書を片時も離さず、迷える時も、1人聖書にその迷いを託すように読み入る。

こうと決めたら、実行する。そんな彼こそ何に依存することなく、一人でも戦い抜く戦士なのだなと、映画はしっかりと分からせてくれる。

様々なドラマチックな演出が加えられたに違いないが、実在したデズモンドの実際の行動には、映画で描かれている以上に超人的な部分もあるらしく、これを観て事実と違うなどととやかく言うのはナンセンスだとも思える。

そして、最後には日本側の様子もきちんと描いてくれている為に、わたしたち日本人は、日本側の死を覚悟した思いを受け止めることができ、ただの鬼畜兵達のようには描いていない。

戦地で、負傷したまま放置されて、命を落とす者が多い中、かれはたった一人で70人以上の兵士を助け出したのだ。本当に言葉を失うほどの勇敢さと強い信念。

人間が人間で無くなる戦地の恐ろしさ。
そして、一瞬にしてその人間を肉の塊にしてしまう銃や爆弾などの兵器の恐ろしさ。

「人の命を奪う戦場で、人の命を救う人間が一人くらいいてもいいじゃないか!」

戦争が人の命を奪い合う行為であることを、観る側もはっきりと、まざまざと見せられる。そして、そんな中に再び立ち向かっていかなければならない兵士たち。。。。壮絶という言葉だけでは語り尽くせない。

汝殺すなかれ。という神の言葉を胸に、平和主義者として傍観者となるだけでは、何も変わらない。彼のような人が物事を大きく変えて行くのだろうとは思うけれど、果たして何か変わったのだろうか。。。

過激な人体損壊描写には目を覆いたくなるだろうけれど、戦争を知らず、漠然と平和を唱える私たちが見ておかなければいけない作品だと感じた。
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