凛太郎は元柚彦

ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャーの凛太郎は元柚彦のレビュー・感想・評価

4.0
「ライ麦畑でつかまえて」は海外小説のなかでもかなり有名な青春文学だよね。
俺も人生を変えられた大好きな本の一つなんだけど、ただの青春文学ではなく主人公の少年ホールデンはサイコで尖ってて皮肉な野郎だ。整頓されてない曖昧な世間をインチキ野郎って批判する姿はどこか自分にも通ずるとこがあって憎めない。
この映画は「現代社会を現実的に、生きることの苦しさをありのまま伝えること」のこだわりを貫き出版業界の反対を押しきって出版に臨んだ有名な作家J・D・サリンジャーの伝記映画だ。
作家になるということとはどういうことか。
決して見返りがなくても死ぬまで物語を書き続ける意志がなくてはいけない。例え一生出版されず自分が一生懸命生み出したものが「つまらん」の一言で片付けられ陽の目を浴びることがなくても、書き続けることができるだろうか。
J・D・サリンジャーは文字通りどんな場所でも書くことをやめなかった。戦場や極寒で生死を彷徨ってるさなかでさえメモとペンなんかもちろんないが、彼は頭の中で呼吸するようにホールデンを書き続けた。
つまり彼にとって、執筆することは呼吸と同じぐらい生きること同然なのだ。
個人的にライ麦畑の中で好きな一節があるんだけど、
「僕が本当にノックアウトされる本というのは、読み終わったときに、それを書いた作家が僕の大親友で、いつでも好きなときにちょっと電話をかけて話せるような感じだといいのにな、と思わせてくれるような本なんだ。」
ここの大親友はつまりサリンジャーにとってのホールデンであり、彼の心に寄り添ってくれる唯一の理解者は彼が生み出した本の登場人物でしかないっていうもの悲しさを感じさせるものになっている。
物語を書き続けるかぎり孤独ではないから彼は出版をやめた後も書くことをやめなかったんかな、なんてことを考えるとより一層淋しさが増すし芸術に生きる人達への敬意を払わずにはいられなくなる。
「ライ麦畑でつかまえて」がどうやって生まれたのか知れるのはもちろん、作家になることの厳しさと孤独を叩きつけられる映画だった。