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メリー・ポピンズ リターンズのmのレビュー・感想・評価

4.6
まずこの文章全体の構成など無視して今すぐに書いておきたいのが、とにかくエミリー・ブラントが最高だという事だ。詳しくはまた後ほど。


前作ではメリー・ポピンズと子供達が指をパチンと鳴らせば勝手に部屋のおもちゃが片付いていったが、今作では子供達は自分の手でおもちゃを片付けるし、メリーは子供に魔法を使わず彼らの手でメイドさんの手伝いをするように命じる。
序盤でこの描写があった時、自分の中でこの映画の中での魔法という概念がどういうものなのかが分かった気がした。メリーの魔法はあくまで心を変える、後押しをするものでしかなくて、結局は登場人物達が行動する事でしか物事を変える事はできないのだという事。その行動の為の後押しをしてあげるだけ(マジでやばくなったら物理的に助ける)、その点で今回のメリー・ポピンズは前作の時ほど甘くない、現代的な魔法使いになった。壺の世界の中で子供達が割と危険な目に合うのも、彼女なりの教育だと解釈した。冒険には危険があった方が良いし。

個人的にはその点は前作よりも好きなのだけど、それにしてもそうするとメリーの魔法の映画の中での印象が弱くなってしまうのは否めない。クライマックスで行われる行動は地味でカタルシスが無いし、そこで身体を張って活躍するのが一家ではなく脇役達であるのもまた弱い。そう考えると結構半端な映画になってしまったなとも思う。

大恐慌時代の燻んだ色調の世界と家の差し押さえの危機というサブプロットに灰色の現代を反映させて、古き良きディズニーのポジティブ過ぎるくらいの善のメッセージを臭みを薄めつつ実感をこめて現代に蘇らせようという試みは方向性としては正しいと思う。ただその反対としての魔法の爆発感がやや薄いのは残念だった(ラストにはディズニーらしい魔法の感覚があったが)。



前作の歌のメロディーは劇伴で品良く引用されるが基本的には今作の歌曲は大体新曲で、この歌曲が悪くはないものの最高とまでは言えず印象が薄い曲ばかりなのが残念(「ラ・ラ・ランド」の歌はいつまでも覚えているけれど、この映画の歌はもうあまり覚えていない)。
更にまずいのがロブ・マーシャル監督のミュージカル演出の冴えがかなり衰えている事だった。役者は躍動するが映画は躍動していない。懐かしのセル画アニメとのコラボもあまり胸躍らない。作り手の往年のミュージカルへの敬意と愛情はひしひしと伝わるのだけれど・・・
これらミュージカル映画としての不備は、明確にこの映画の欠点の1つだと思う。


それでも演出が良い所は随所にあって、特に序盤とラストのあの突風が吹く所には『映画的』な力強さが漲っていて本当に素晴らしく、涙が出た。





そういう感じで欠点の多い映画だと思うが、観ながら高揚したり涙する瞬間も何度もあって、なんだかんだで結構気に入っている。

この映画の最大の美点はもう誰もが感じる通り主演のエミリー・ブラントで、恐ろしい事に前作のジュリー・アンドリュースを上回る勢いで「この人こそがメリー・ポピンズだ・・」と思わせる説得力と演技力と魅力を携えていた(ちなみに彼女の衣装も素晴らしい)。歌もお見事。メリー・ポピンズを演じるエミリーを観ているだけで圧倒的な多幸感がある。
顔立ちも表情も常に柔らかかったジュリーのメリー・ポピンズに対して、エミリーのメリー・ポピンズは顔立ちも表情も割とクール。それ故に言動とのチャーミングなギャップが生じていて素敵だった。
そんな彼女のクールな表情が微かに崩れる瞬間が何度かやって来る。前作ではあくまで一家を見守る存在であり、ある意味アイコンでしかなかったメリー・ポピンズの感情が遂に描かれる事に感嘆した。言葉や歌ではなく、わずかな表情の変化で見事に繊細な感情を表現するエミリーの演技が本当に素晴らしくて、ここに今作の映画としての最大の愉悦がある。

一方で、彼女の相棒となるはずのリン=マニュエル・ミランダにはミュージカル俳優としての技術は十二分にあったが、大スクリーンを担う為の華や魅力がやや足りていなかったように思えて残念だった。そこは前作のディック・ヴァン・ダイクとの大きな差を感じてしまう。


個人的にもう1人素晴らしかったのがベン・ウィショーで、彼が歌う様は本当にエモーショナルで心震えた。古き良きディズニーの今見ると押し付けがましいメッセージも、彼が歌えば嫌味なく真摯に伝わる。

メリル・ストリープのめちゃ楽しそうな怪演も見ものです。

もう1人前作を知っていると感動のある役者が登場するのだけど、アメリカでは予告で顔も名前も堂々出されているのに日本では一応カメオと認識してネタバレ扱いする人もいるらしいので、そこは念の為コメント欄にネタバレありで書いておきます。



ラストではエミリー・ブラントとベン・ウィショー、エミリー・モーティマーら前作から出ている登場人物達の前作では描かれなかった感情が描かれる。その3人の演技が素晴らしくて、切なくも清々しい気待ちに浸れた。
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