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辻占恋慕のmのレビュー・感想・評価

辻占恋慕(2020年製作の映画)
4.8
大野大輔監督の作品をようやく初めて観たのだけど、確かに才能を感じさせる傑作だった・・
『人生のアウトロ』と向き合う売れない夢追い人達へのレクイエムにはいつの時代にも通じる普遍性があり、尚且つ大野監督のチャラついていない腰を据えた演出と素晴らしいセンスの脚本によって見事に新鮮で骨のある映画になっている。

更に良いのが主演も兼ねている大野監督自身の演技と存在感で、他に無い味わいと的確な巧さの両方がある。作品の要になる早織も見事な歌声と演技で素晴らしかった、何より佇まいに説得力がある。
さらりと存在してみせる川上なな美は「東京の恋人」に続き俳優としての良さを発揮して良い。

大野監督の美点はきちんと映像でストーリーテリングする所で、日本映画にありがちなとりあえずフィックスの引き画で全体の空気感捉えとこうみたいなよくあるやつとか通しで撮って後から編集で決める適当な切り返しといった手抜きをする事は一切無く、ドリーを積極的に使ったカメラワークや的確なカット割できちんと映画として演出しているのが本当に良い。タイトル前の主人公へのトラックインとか見事に的確な狙いだし、主人公と福永朱梨の会話シーンの立地を活かしたカメラの動きとか感嘆してしまう。

普通の音楽映画ならクライマックスはライブ・シーンになる所だけど、この映画は絶妙にずらしたクライマックスへと突入する。ここに辿り着く脚本のセンス、ここでの監督の熱演(たぶんここの毒気がこの人の真骨頂なのだろう)、そして嫌悪している観客を切り捨てるのではなく彼らの痛みをも描く事。大野監督の脚本家としての才覚と懐の深さ、人間観の豊かさを感じさせる。


電流セッションのシーンは流石にふざけすぎてるし長いけど、これはこれで笑えはした。思わぬ体当たり熱演・・


MOOSIC LAB作品(確かそうだよね?違ったらごめんなさい)でMOOSIC LABへの批判をかますのは見事の一言で、空気を読まないチャラい若手監督にギャラ日給5千円という・・笑笑
しかしそんなムーラボ批判が全く予想だにしない美しいラストへと結び付くのは心底感嘆した。本当に巧いな。そう、人生は苦くて美しい。
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