カタパルトスープレックス

おかしな男の夢/おかしな人間の夢のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

3.9
ロシアのアニメーション作家アレクサンドル・ペトロフによるドストエフスキー短編『おかしな人間の夢』の映像作品です。ドストエフスキーは難解な上に長編が多いですよね。手っ取り早くドストエフスキーを理解するのにこの短編アニメーションはとてもいいと思います。

ドストエフスキー短編『おかしな人間の夢』を簡単に解説。世の中に生きることに意味を見いだせない男。拳銃自殺を考えます。しかし、自殺をする前に夢を見ます。夢には理想郷があり、生きる意味を理解します。しかし、現実はそれほど甘くない。じゃあ、どうする?という話です。ドストエフスキーの代表作(そして最もドストエフスキーらしいと一般的に評価される)『地下室の手記』とも共通点がかなりあります。「わたしは病的な人間だ……わたしは意地悪な人間だ」ですね。自己否定と虚無主義に囚われた人間。

アレクサンドル・ペトロフのスタイルはガラス板に描いた油絵によるアニメーションです。アニメーションで難しいのは質感です。特に水やザラザラ素材。油絵は質感を表すのに最適な材料です。本作でも水の表現や暗闇の中の質感の表現が素晴らしいです。原作の小説のほとんどは夢の話です。これを映像化するにはイマジネーションが必要になります。そうしないと、ドストエフスキーのメッセージが歪められてしまいますからね。この作品ではかなりうまくやったのではないでしょうか。

このガラス板に描いた油絵アニメーションはすごく手がかかります。1)したから光を当てたガラス板の上に油絵を指で描く、2)出来上がった油絵を撮影する、3)ガラス版の油絵を消す(!!!)。4)最初に戻る。一枚絵を描いたら消すんですよ!スゲー大変!