オトマイム

シーモアさんと、大人のための人生入門のオトマイムのレビュー・感想・評価

4.0
一昨年の公開時、フライヤーのまるっとした柔和なお顔に吸い寄せられるように劇場に入った。柔らかく繊細なピアノの音色、包み込まれるようなシーモアさんの語り口にじわじわと心が潤った。社会的な成功や賛辞と離れこんなにも美しい音を丹念に紡ぎだそうとする人が世の中にはいる。その頃対人関係で嫌なことがあり気持ちがささくれ立っていたのだけれど、俗っぽいことに囚われていたくないと思った。

レッスンや自身の練習風景の合間に彼の話が挟まれる。将来を嘱望されながらなぜ50歳で引退したのか。練習する時の心持ちについて。技巧を磨くことの大切さ。特に好きなのは戦争で極寒の朝鮮半島へ招集されたときの鹿の話。彼のみずみずしい感性が伺い知れて素敵だった。彼のどんな言葉が心に響くかは人それぞれだと思う。

超絶テクニックが必要な曲、激しく鍵盤上を舞うような曲は出てこない。一見やさしい曲ほど人の心を動かすことが難しいし、その人となりを露わにする。奏でる音楽はその人そのものなんですね。