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将軍様、あなたのために映画を撮りますのodyssのレビュー・感想・評価

3.7
【将軍様に拉致された韓国映画人2人】

英国映画。

韓国の女優・崔銀姫(チェ・ウニ)は、同国の映画監督である申相玉(シン・サンオク)と一時期夫婦関係にあったが、夫の女性関係が原因で離婚した。しかし2人は1978年に相次いで北朝鮮に拉致された。

その指令を出したのは、金正日。彼が映画マニアであることは良く知られている。北朝鮮の映画が面白くないことに業を煮やしていた彼は、韓国の監督と女優を(不法に)連れてきて娯楽色豊かな映画を作らせようとたくらんだのだ。

このドキュメンタリーは、崔銀姫へのインタビューを中心に、二人と関わりのあった映画人へのインタビュー、北朝鮮で暮らしていた当時二人がこっそり録音したテープの音声、申相玉監督の作った映画、北朝鮮の様々な映像などをちりばめて、拉致事件の真相に迫ろうとしている。

申相玉監督は、韓国での映画作りが資金難のために思うように行かないことに苛立ちを覚えていた。韓国が映画大国になったのは世紀が変わる頃からであり(TVドラマ「冬のソナタ」は2002年作)、1978年当時の韓国はこの程度だったのである。
監督は北朝鮮に拉致されてから、金正日の庇護下で、豊富な資金を使って映画が作れるようになった。内容についても特に制限は受けなかった。崔銀姫も様々な面で映画作りに協力した。

とはいえ、常時監視されている北朝鮮での暮らしはやはり窮屈。数年後、ふたりはオーストリアで米国大使館に駆け込んで亡命する。
 
韓国内では、崔銀姫はともかく、申相玉は自分から進んで北朝鮮に行ったと思われていたという。結局申監督は亡命後も韓国で映画を作ることはできなかったそうである。

なお作中で使われている録音テープで、申相玉監督はしばしば日本語で話している。彼は1926年生まれ、当時の朝鮮半島は日本領だったのに加え、東京美術学校(現・東京芸大)に学んでおり、日本語に堪能な人だった。2006年に死去。
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