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ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦のICHIのレビュー・感想・評価

5.0
素晴らしかった。
悲しくなった。

チェコ、イギリス側から見た当時の歴史を勉強したくなった。

音響と映像が一体化して、彼らの結末へと一気に進んでいった。

無駄がない、そしてリアルで、胸が苦しかった。

「くまを駆除しました」と平気で報道する今のニュースのような公然さで、ナチス反発分子のチェコ人たちを「駆除」してゆく。

賞金と赦免をちらつかせて捕らえたチェコ人を散々なぶって全てを吐かせる。ごきぶりをなぶり殺しにするように、痛めつけて吐かせる。バケツに入れられた母親の生首。

こんな歴史があったことが、信じられない。

日本の戦国時代も、ナチスの時代も、その他歴史にある各国の大量殺戮の背景に何があるのか、当時よりは遥かに恵まれて生きていられる今だからこそ、調べてみたいと思わせられた。

たまたまジャオで発見した『警察犬REX』からカール・マルコヴィックスにはまり、彼の出演作から思いがけずナチス関連の映画を観ることになり、関心が高まった。

警察犬のドラマを観なければ、こんな重苦しいカテゴリーの映画なんて興味を持たなかったかもしれないと思うと、役者の持つ魅力と、影響力に感心する。

又、今回の主演ヨーゼフ役が、たまたま随分前に好きになったキリアン・マーフィーだったことも、この作品に引き込まれるポイントとなった。

役者の作品に与えるインパクトは非常に大きく、役者でその作品が決まると言っても過言ではないと思う。

今回、キリアン・マーフィーだからこそ伝えられた、透明感に満ちた緊迫と絶望があった。

その彼の任務から最期までの感情を、余すところなく描いた監督の撮影/演出だった。

カメラから音響音楽、セリフのいちいちまでに無駄のない統一感があり、大きな水柱が立ち上って消えてゆく一連の様子を一気に捉えたかのような、そんな感覚だった。

この作品は『ナチス 第3の男』の後に観たが、そちらの方は完全にこの作品の焼き直しのような、よくある「リメイク」という名の「改悪」のように感じた。

こういう重苦しい作品の評価を、どういうことを基準にして考えればいいのか分からなくなる時もあるが、やはり最後には動物的に興奮する何か、本能的に感じるインパクトで評価する部分が大きいと思う。

「映画である」という冷たい枠を破って、こちらに訴えかけてくるもの、「カメラで撮っている」「史実を再現している」「演じている」「演出している」という第三者視点を取っ払って、現象の中に引き込んでくれるもの、そういう魅力と思いが詰まった作品が、「佳い作品」として心を動かすのではないだろうか。

ショーンエリス監督に脱帽である。
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