王道な作りの人道ドキュメンタリーで文科省推薦作品らしいので、素直に感動できる人とどうしてもこの手の話の演出を斜めに見てしまう人では評価は分かれるでしょう。昔の記録映像がわりとたくさん出てくるのでこの時代に興味のある人ならそれなりに楽しめるかと思います。第二次世界大戦前にドイツに占領されたチェコから、ユダヤ人の子供たちをイギリスへ脱出させたニコラス・ウィンストンさんという人のお話しです。
チェコスロバキアがドイツに占領される過程は、まず1938年にドイツの強圧により、ミュンヘン会談で民族ドイツ人が多く住むズデーテンと呼ばれる地方がドイツに割譲されます。これによってズデーテン地方はいきなりドイツになっちゃうので、そこに住んでいるユダヤ人たちは逃げだしてくるわけです。その人たちがプラハなどで難民となり、ニコラスさんはまずこの難民たちのお世話をするためにチェコに行くことになり、そこでユダヤ人の窮状を知る事になります。
その後1939年3月にチェコスロバキアはドイツに占領されて、ボヘミア・モラビア地域はベーメン・メーレン保護領となり、ここにチェコスロバキアという国は消滅することになります。なんで「保護領」なのか?とか調べてみると、このチェコ占領にも色々な経緯があって複雑なようです。
ナチス・ドイツのユダヤ人迫害はますます苛烈になる事が予想され、ニコラスさんは子供たちだけでも国外へ脱出させようとしますが、どこの国もユダヤ人の難民を引き受けてくれず、唯一、母国イギリスだけが受け入れを承諾してくれます。ニコラスさんはイギリスで里親を探してチェコの子供をその里親に引き取ってもらう活動を始めます。まだ戦争前ですが、考えてみると親が自分の子供を手放してまでよその国へ行かせようとするなんて、当時のユダヤ人迫害の切迫した状況が窺えます。ニコラスさんはチェコでは子供たちの名簿を作り、イギリスでは新聞に広告を出して里親を募集し、子供たちをイギリスへ送り出していきます。
子供たちがチェコからイギリスへ行くには、鉄道でフランスまで行ってそこから船に乗るんですが、当然途中でドイツを通るんですよね。子供たちが列車から見たドイツの風景は、街中に鉤十字がはためいてヒトラーの肖像が飾られ大勢の軍隊がひしめき合っている、まさしく独裁政治の全体主義国家そのもの。恐怖の中でドイツを通り抜けて、オランダへつきようやく一安心します。
そして1939年9月にドイツのポーランド侵攻で第二次世界大戦が始まり、予定されていた次の250人の輸送は不可能となり、ニコラスさんの活動はここで終了せざるを得なくなります。
チェコはこの後SSのラインハルト・ハイドリヒがベーメン・メーレン副総督として就任し、黙示録の時代を迎えることになります。輸送できなかった子供たちはほとんどが命を落としたそうです。
映画ではイギリスへ渡った子供たちのその後の生活や、50年後にこの事実が明らかになり、ニコラスさんと成長した子供たちの感動の再会を企画したテレビショーなどを挟みつつ、最終的には現代のボランティア活動などの人助けに繋げていき、ここが狡いと感じる人が多いようです笑。
そんな感じでドキュメンタリーとしては突出したものはあまりないかと思いますが、素直に観て素直に感動できる人や、内容に興味がある人は観てもいいかと思います。