あしたか

サバイバルファミリーのあしたかのレビュー・感想・評価

サバイバルファミリー(2017年製作の映画)
4.6
とんでもねぇ傑作。大感動

かなり本格的でシリアスな作り(少しの笑いもある)。加えて序盤はかなり怖い。こういう経験は日本人にとっては全く他人事じゃないからね。

あって当然のもの(映画の中で描かれるのは電気、食べ物、水、そして家族等)の有り難みを再認識することで、生活環境だけでなく人間関係もスクラップ&ビルドされる。

そんな映画を象徴するアイテムがお父さんの「カツラ」や子どもたちの「スマホ」等。
見栄と一緒にそんなもの捨ててしまえ!と言わんばかりの力強いメッセージを感じた。
勿論それ自体は悪いものではない。ただ、最初はただ「必要なもの」だったそれらが時間が経つにつれ「煩わしいもの」に変わっていく。

「昔はよかった」とまで極端なことは映画は言っていないが、今になるまでに人類が得たものと同じくらい、恐らく失ったものも沢山あるんだろう。便利さの中に埋もれさせてしまった人間性というものが間違いなくある。
この家族はサバイバルを通してそれ取り戻した。その大切さを映画は絶大な説得力で語る。

感想ぽいことを言うと、某所でご飯を食べるシーンと発煙筒のくだりは泣いた。


恐怖を感じるレベルの説得力をもって描かれる本格的サバイバルを通した、骨太の"人間"再生ドラマ。パニック映画としても人間ドラマとしても見ごたえありすぎ。激オススメです。


P.S. 撮影は凄く過酷だったろうなぁ。役者は全員ずぶ濡れになったり汚れたりと大変そうだった。
あと予告編で使われてる「全てがOFFになると人間がONになる」というキャッチコピーがかなり気に入った。その通りの内容だった





以下散文。

電気が戻った瞬間のあの「全然嬉しくなさそうな」表情と、ラストに届く写真の家族の表情、この2つの対比が全てを物語ってる。また、”煩わしさ”の象徴であるスマホやカツラといったアイテムの使い方も実に上手い。監督の手腕によりこういった器用な演出と巧みな技が溢れている。

サバイバルファミリーは実はBGMが1回しか流れなくて(中盤の自転車漕いでるシーンでメンデルスゾーンの曲が流れる)、これがBluRayのメニュー画面でも流れてる。使われる曲が1曲しかなくてしかも一場面しか流れない。これはつまりあそこまでがスクラップ、あそこからがビルドっていう転換点を意味してる。
こういう事に気付くと矢口史靖監督の力量に震えてしまう。本当に凄い。

電気がOFFになると人間がONになる。電気が消失することで人間は人間らしい生活ができなくなった。かに思われたがそれは違った。電気を失うことで生活レベルは確かに下がったかもしれないが、逆に人々は本来の(古来から続く)人間的な魅力を取り戻した。そういうお話です。

便利な生活から遠ざかることで逆に本来の人間ならではの魅力(コミュニケーション)溢れる生を送れるようになる、という構造はアニメ映画の『楽園追放』と似ている。あれも楽園を追放されることで逆に生き生きとする人間の話だった。どちらも現代社会に対する皮肉が物凄く効いている。
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