カーペットがある限り

荒野にてのカーペットがある限りのネタバレレビュー・内容・結末

荒野にて(2017年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

誰も知らない・頼るものが何もない土地に放り出されたら、生きていけないわ。

東京もそうだけど、偏見も経済も乾いた空気も厳しいアメリカ南部の荒野なら、なおさらじゃないかしら。

そんな草木も生えない土地で無謀にも、馬と生きていくことを選んでしまった少年の話。

道端に生える雛菊のように、素敵なセリフがあちこちに散らばってるのが嬉しい。

「昔は馬が好きだったが、今じゃ役に立たない馬を殺す。そんな自分を殴りたくなる」

そう言う(スティーブ・ブシェミ演じる)雇い主のデルは、ふと「こんなこといつまでもやってちゃいけねぇ。もっとまともな仕事を探せ」と言う。

しかし、馬への愛着が強く、父をも失いそうで、世界との切れそうな絆を強くするためには、そのまま残ることにするチャーリー。

しかし、その判断が、この後の壮絶な体験に繋がっていく。

観ていて、どこまでも果てしなく続く辛い現実に、自分を重ね合わせてみた。

とにかく辛い。
しがみつくものが、生への執着。

どこまで悲惨な現実と美しい自然が続くのかと、胸が張り裂けそうな気持ちでいっぱいだった。

最後にたどり着いたララミーの街で、待っていたのは、アリソン・エリオット演じる伯母。

彼女の名前に聞き覚えがあった。
彼女は「鳩の翼」と「この街で天使はバスを降りた」で、ミレニアム端境期にブレイクした女優さんだ。

その後、女優業はお休みモードだったはずなのだが、こうして再会できる楽しみがあるのも、また映画の醍醐味だ。

それにしても、天使のような美貌はすっかりアメリカのおばさんになってしまった。でも、人を受け入れる大地のような寛大な心はさらに広がりを見せ、優しさに溢れていた。

クリストファー・プラマーの孫チャーリーは、おじいちゃんと共演した「ゲティ家の身代金」では親の七光りぶりが鼻につくところもあったけど、この映画では、文字通り何もすがる所がないあてどない荒野で、ひたすら飢えと渇きと乾いた自然にゆっくりと生きたまま灼かれていく無垢な姿を体現してみせた。

クロエ・セヴィニーの生き生きとした演技も久しぶりに観れたし、監督・役者とも次回作が楽しみね。