常盤しのぶ

映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険の常盤しのぶのレビュー・感想・評価

3.5
うん、狂気山脈だこれ。
ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの著作に『狂気山脈』という長編がある。南極へ地質調査へ向かった際に様々な古代生物と出会う話なのだが、この狂気山脈と本作が非常によく似ている。冒頭に出てきたイカだのタコだのは有名なクトゥルーであろう(タコって言ってるし)。それを何故ドラえもんの世界へ落とし込もうと思ったのかは謎だ。

その思いが強いせいかストーリーや舞台設定もやや強引な部分が多く見受けられる。タイムリープモノにありがちな『それ、最初はどうだったの?』の問題や、映画限定キャラの背景が薄く、印象に残りづらかった点など、無粋なツッコミを入れようと思えばいくらでも入れられる雑な仕上がりとなってしまっていたのが残念。

ただ、それでも好きなシーンはある。

私が一番好き、というか印象に残っているシーンは、冒頭。ドラえもんとのび太がどこでもドアで最初に南極へ降り立ったシーン。ドラえもんはそそくさとどこでもドアを片付けてタケコプターで氷山へ向かって飛んでいってしまう。しかし、周囲は霧で覆われていて、下手すれば置いていかれたのび太は遭難してしまう。結果的に二人とも無事に氷山へたどり着けたものの、あのさざ波以外なにも聞こえない十数秒のシーンがとても不気味で印象に残った。

もうひとつ。中盤から終盤にかけてスネ夫とジャイアンがカーラに辛く当たるシーンがある。あまりドラえもんの世界に似つかわしくない残虐性が感じられるシーンなのだが、あれはいわゆる発狂を柔らかく表現したのではないか。私にはそう見えた。そういえば本編中ところどころにダイスロールできそうなシーンがあったような……。本作はそういったクトゥルフ神話やTRPGの面白さを説こうとした挑戦作であると私は受け取った。