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新感染 ファイナル・エクスプレスの3110136のネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

かなり良いゾンビ映画。良かったです、オススメ。


ゾンビ映画が好きです。
(レビューのたびに毎回似たようなことを書いてまして、前に読んで頂いた方もいらっしゃるかもしれませんが、そこはご容赦ください)

●ゾンビという概念・ルール
《ゾンビ》という概念・ルールは《偉大な発明》で、それはなぜかというと《昨日の友が今日の敵に、しかも望まずして》を簡単に表現できる様になった事だと思います。ここに《ドラマ性》が生じ、私達は感情を揺さぶられるわけです。

ある人は妊娠中の妻を残してゾンビにならなければならない、ある人は幼い娘を置いてゾンビにならなければならない、切なすぎるではないですか。

この切なさこそが、私が《ゾンビ映画》を好きな理由です。

《ゾンビ》という概念・ルールを用いずに《昨日の友が今日の敵に、しかも望まずして》を表現しようとすると、なかなか大変だと思います。観る側にいろいろ設定を伝えねばなりませんからね。それだけで尺が必要になります。

そんな複雑な設定をいとも簡単に実現したのが《ゾンビ》なわけです。

その他にも
・本当に怖いのは《人間》
・荒廃してゆく世界
・秩序がない世界
とかゾンビ映画が得意とする表現は他にもあります。ま、これはゾンビ映画でなくとも表現できますが。

●新感染というゾンビ映画
ゾンビ映画にも色々な《顔》がありまして、ホラーだったり、アクションだったり、パニックだっりと、それぞれで見せ場を作りやすいという意味で、ゾンビ映画は《優等生ジャンル》といえるかもしれません。

そして、この《新感染》という作品は、私がゾンビ映画に期待するものをほぼ盛り込んでくれています。
・大切な人がゾンビになってしまう
・大切な人を残してゾンビにならなければならない
・ここは俺に任せろ!(自己犠牲)
・本当に怖いのは人
などなど、満点に近いです!

それぞれ後で詳しく書いていきます。

ゾンビの《仕様》もちょっとだけ気にはなります、本筋ではないですが。仕様とは簡単にいうと、走るのか、どうすると感染するのか、どうすると死ぬのか、とかですね。今回のゾンビは《見えないと襲ってこない》という仕様です。良いアクセントになっていましたね。

感染した人の心理を描くためには、感染して発症するまで(理性をなくすまで)がちょっと早いですね。設定的にしょうがないですが…。釜山に着いちゃうからな。

唯一描かれなかったのが、無人のショッピングセンターなどでの買い物的シーン。これもあったら最高だったな〜。ゾンビ映画好きな人だったら分かってくれると思うんですが、あれ好きなんですよね〜。

ちなみに原題は「부산행」、直訳すると「釜山(プサン)行き」だそうです。シンプル!邦題の《新感染》は言わずもがな《新幹線》にかかっていて、まあ「釜山行き」ではちょっと観る人少なそうなので、良い邦題でしょう。《感染》と入っているのでわかりやすい。《ファイナル・エクスプレス》については「必要?」って感じもしますが…。

●あらすじ
証券会社でファンドマネジャーを務めるソグ(主人公)は、高収入で裕福な暮らしをしているが、その反面かなり忙しく家庭を顧みない日々を送っていた。そのせいで妻ナヨンとの関係は悪化。現在は離婚に向けた調整中で、一人娘のスアンの親権を争っている。子育てにおいては、経済的な問題ないが、愛情面を考えると必ずしも自信があるわけではなかった。その日も学芸会の発表を観に行けず、代わりに母が撮影してくれたビデオを観るといった具合だ。

そんなある日、娘スアンが妻ナヨンに会いに一人で釜山まで行くという。さすがに一人で行かせるわけにも行かず、ソグはスアンと一緒に釜山へ向かうことにした。早朝5:30分、釜山行きの新幹線が出発しようとしている。ドアがしまる直前、様々な乗客に混じって一人の女性が飛び乗る。顔色は悪く、時折痙攣している。乗務員が心配して近寄ると、その女性客は突然襲ってきた。噛みつかれる乗務員。何かが感染したのかすぐに凶暴になる。そしてまた他の人に噛み付く。そして、時速300kmで走る新幹線という密室の中で、次々と感染の連鎖は拡がっていった。

新幹線の外でも感染は拡がり、各地で暴動が発生しているようだった。テジョン駅で新幹線は停車すると車内アナウンスが入る。ソグは証券会社の顧客でもある韓国軍所属の大尉に話を聞くと、テジョン駅で乗客は降ろされ隔離されることになるという。何とか自分と娘だけ助けてくれと頼むソグ。大尉はテジョンで降りたらここに来てくれとソグに伝えた。

テジョンにつくと人気がない。皆外に向かって歩いていく。自分たちだけ助かろうと、別のところへ向かうソグ。それを知ったソヨンは「みんなにも教えよう、パパは自分の事しか考えていない」とソグに反発する。そうこうしている間に感染者の群れが押し寄せてきた。すでにテジョンにも感染が拡がっていたのだった。再び新幹線に戻る。何とか飛び乗り出発するも、混乱の中、ソグとソヨンは離ればなれになってしまう。

ソグたちはソヨンが同じ新幹線には乗っていること、しかし感染者に囲まれトイレに閉じ込められていることを知る。自分たちがいるのは9号車、ソヨンたちがいるのは13号車のトイレ。4号車分進まなければならないが、その間には多数の感染者がいる。意を決してソグたちは13号車を目指した。感染者が視力によりターゲットを感知することに気づく。トンネルに入った時に暗くなるタイミングを利用し、なんとか13号車に辿り着き、誰一人欠けることなく合流に成功する。

他の生存者のグループと合流するべく、先に進むソグたち。しかし車両にたどり着くも「感染しているんじゃないか?」と疑われ、中に入れてもらえない。後ろから迫る感染者の群れ。無理やりこじ開け何とか中に入ることができた。しかし、感染の疑いが晴れたわけではなく、連結部に隔離されることに。人間は何で自分の事しか考えるとことができないのだろうか。ところが、ソグたちが連結部に移動したあと、ソグたちを隔離しようとした他の生存者は感染者に襲われることになる。意図的に扉が開かれてしまったからだ。

新幹線は釜山に向けて依然進んでいる。しかし、東テグ駅で貨物車両が倒れており線路が使えなくなっていた。先に進むには別の列車へ乗り換えるしかない。犠牲者を出しながらもソグとスアン、そして妊婦の3人は牽引車両へ乗り換え釜山を目指す。ところが牽引車両での争いの中でソグは手を噛まれてしまった。自分が理性を失うのも時間の問題だ。ソグは自らの身体を牽引車両から投げることで、幼い娘を守ることを選んだ。その後、スアンと妊婦は軍隊に保護される。

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うまくまとめられず長くなってしまいましたが、おおよそこんな感じです。

メインの登場人物ですが、
・ソグ(主人公)
・スアン(ソグの娘)
・ソンギョン(妊婦)
・サンファ(妊婦の夫)
・ヨングク(野球部)
・ジニ(野球部のマネジャー)
・バス会社の常務
・ホームレス
・運転士
この他にも初老の姉妹がいますが割愛。だいたいこんな感じ。老若男女揃っていてバランス良いです。ペットはいなかったかな。


●ゾンビになる人、残される人
ゾンビ映画ですので、大切な人がゾンビ(感染者)になってしまう人、大切な人を残してゾンビ(感染者)になってしまう人、たくさん出てきます。その中でもここで取り上げたいのは3つあります。これはとても切ない、ゾンビ映画の見どころの一つ。

・妊婦とその旦那
1つ目は、まもなく出産を迎える夫婦。

13号車のトイレで合流した後で先頭車両のほうに向かっていくシーン。その車両に入れてもらえないが、後ろからは感染者の群れが迫ってる。そこで旦那さんが食い止めるために扉を押さえるのですが、最終的には噛まれてしまう。ソグも一緒に押さえていましたが、もう自分が助からないと悟った旦那は「妻を頼む」とソグに託します。

少し前に、旦那の「父親ってのは文句を言われても、家族のために犠牲になるもんだ」というセリフがありました。口は多少悪いですが、そういう頼りになる力強い人物でした。

そして妊婦の奥さんのキャラクターも良い。なんというか《気丈》なんですよね。旦那さんが死ぬことは当然悲しいのですが、旦那さんの性格を分かってるがゆえに「こういう死に様があの人らしい」という覚悟が画面から伝わってくるようでした。

最後に娘の名前を伝えて死ぬというのも中々グッとくるシーンでした。

ちなみに奥さん役は、チョン・ユミ。かわいい。旦那さんはどことなくロバートの秋山に似ていて、私は秋山が好きなので、途中から秋山にしか見えなくなりました。

・野球部のカップル
2つ目は、野球部のカップル。

バス会社の常務のせいで彼女が先に噛まれてしまいます。でその後彼氏も特になにかするでもなく、変異した彼女に襲われるっていう割とあっさり目の展開。感染した人に対して取れるアクションは大きく2つ。殺すか、それ以外か、です。彼氏は気弱というか、とても彼女を殺すことはできなかったんでしょうね。脇役ではあるのであっさり目でも気になりませんでしたが、もう少し描き方もあったんじゃないかなと思いました。ま、リアルっちゃリアル。

・父と娘
3つ目は、主人公ソグとその娘。もうね、父と娘は反則技ですね。個人的に好きな組み合わせ。

牽引車両でバス会社の常務がゾンビになってしまっていて(みんなザマミロって思ってそう)、争っている時にソグが噛まれてしまう。

物語も終盤に差し掛かり、今まで一緒に行動してきた仲間もソグとスアン(主人公の娘)と妊婦さんの3人になってしまっています。ソグは自分が感染者になると2人を襲ってしまうので、その前に自ら列車から身を投げます。

初めはやや距離がある父と娘。父ソグはうまく娘スアンに接することができていなかった。恐らく今までこんなに一緒に過ごしたことはなかったんでしょう。今回の事件をとおして二人の距離はかなり縮まったと思われます。だからこそ、最後の別れが辛い。

ちょっとだけ思うのは、「噛まれちゃった以上、もう自分は死ぬしかない」これは正しい決断だと思います。どうしようもない。ただ、この先果たして釜山に行けるのか、行けば安全なのか、そんな《一寸先は闇》な現状で娘を残して死ななければならない、ってのはとても悔しいだろうな。その表現がちょっと物足りなかったというか、もう少しあっても良かったような…。


●自己犠牲「ここは俺に任せろ、先に行け!」
自己犠牲《自分のことを顧みず、誰かを助ける》、これは美学ですね。その覚悟に心を動かされる。これに関して2つあったと思います。

・サンファ(妊婦の夫)
1つ目は、まず妊婦さんの旦那さん。

これはもう王道中の王道だと思います。噛まれてしまったので、これ以上は自分が家族を守る事はできない。残された選択肢は、基本的にはやっぱり最後の自分の力振り絞ってゾンビを食い止めることだと思います。もしそういう状況になったとしたら、みんなが比較的後選ぶ選択肢かなと思います。《あなたが噛まれちゃった後、迫りくるゾンビの群れを前にして、ゾンビに変化する前にやること》ランキング1位。もう治療方法が見つかってない中で噛まれてしまった時点で、つべこべ言ってもしょうがないので、潔くいきましょう。

・ホームレス
2つ目がホームレスですね。

東テグ駅で脱線事故が起こってしまった後、狭い空間に閉じ込められてしまうスアンとソンギョン(妊婦)とホームレス。徐々に感染者が迫ってくる。そこで《なぜか》ホームレスが身を呈してゾンビを食い止めるシーンがあります。

で、描写を見逃したのかもしれませんが、ホームレスに関してあまり深掘りをされてなかった気がしていて、2人を助けるために身を呈する流れがいまいち納得できない。ちょっと残念。なぜホームレスがその2人を助けるに至ったのか、そのホームレスの気持ちの変化みたいなものがあまり表現されてなかったので「なんで?」という感じですね。

一緒にそれまで行動してきた仲間なんだろうと思うんで、単純に仲間意識が芽生えたとか、そういうことなんだろうと思うんですけども、例えば「ホームレスなので今までの世界の人間扱いされなかったのが、スアンは公平な目線を持っているので、人間扱いしてくれたって言う所に恩義を感じた」とか、「生き別れた娘がいる」とか、伏線があってもよかったんじゃないかなとちょっと思いました。ホームレスの登場シーンで「みんな死んでしまった」と言っていましたが、なんか関係あるのかもしれません。


●本当に怖いのは《人》
ゾンビ映画で結構描かれるのが《本当に怖いのは人間だ》と言う表現です。恐らくゾンビ映画の歴史からも、本当のコアの部分は多分ココなんだろうと思います。

まず、バス会社の常務。良いアクセントになっていましたね。13号車合流の後のシーン、中々良い悪役っぷり。

人間て自己中心的で弱いんですよね。常務の扇動により、みんなして主人公たちを車両から追い出す。あのシーンは強烈でした。「ここにいた方が安全だよ」に対し「ここにいる方が怖い」というジニ(野球部マネジャー)のセリフも印象的。でももし自分が同じ立場だったらと思うと、彼らと同じ対応をしてしまうんじゃないか、と感じます。蜘蛛の糸的な示唆が

前の連結部に移動をした瞬間「あ、この人たち(追い出した方)死ぬな」って思った人も多いでしょう笑。

●その他
・鹿ゾンビ
割と鹿がゾンビになるパターン多いですよね。

・ゾンビを素手で殴るのやめてほしい
感染するかとドキドキするのでやめてください。

・携帯電話のフラグ
1度、携帯電話をうまく使って、感染者を誘導するシーンがあります。てっきり、今度は音を立てちゃいけないシーンで、誰かから着信があるパターンかと思いました。映画を変な視点で見過ぎかな…。

・プロフェッショナル
今回のプロフェッショナル大賞は、

「運転士」さんです。

プロだね。Progress(スガシカオ)と一緒にどうぞ。



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と長々と書きましたが、★5に近い★4です。面白かった。ゾンビ映画としてオススメできます。
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