幽斎

ボーダー 自由への扉/シーラーズの9月の幽斎のレビュー・感想・評価

3.6
新作と思ったら、2015年制作「シーラーズの9月」。イランの首都から飛行機で1時間30分の街シーラーズ。此処は綺麗な礼拝堂で有名。鮮やかな日の光が入り込み、想像を絶する美しさを魅せる「マスジェデ・ナスィーロル・モスク」通称ピンクモスク。此方で現地の動画もご覧頂けます。
https://www.youtube.com/watch?time_continue=1&v=MftslAXP2iI&feature=emb_logo&ab_channel=AlexSt

「The Septembers of Shiraz」有名な小説、但しアメリカ人限定で。Dalia Soferの処女作で彼女もイラン生まれで10歳の時にアメリカへ移住。現在はニューヨークを拠点に活動してるが、原作の内容は、ユダヤ人家族の物語で、父は貴金属の売買を手掛け、顧客の中には王族夫人ファラ・パフラヴィーも居るが、王制支持者で有る事から革命の敵対勢力に拉致され、獄中で厳しい拷問に遭う・・・。

皆さんは「ハーパーコリンズ」をご存じだろうか?。世界的な出版社で、プレミアム誌から無名の新人がデビューして話題に。ペーパーバックをAmazonで購入、著者の顔写真も有ります。鑑賞前に読んで見たが、概括的にはアメリカの外交と非常にリンクした内容、と言う事は分った。それは「反イラン政策」で有り、決定的なのは主人公がユダヤ人で有る事。イラン革命に関わった者は、暴力に依る拷問で非人道的な集団と、強く非難してる。しかし、その多くは(推測だが)誇張が過ぎるモノで、彼らを精神異常者とまで糾弾するのは、余りにも視点が偏り過ぎ。だからアメリカで売れたとも言える。

アメリカが執拗にイランを非難するのは「核兵器保有国」。イランに核技術を教え、それを中国にまで飛び火させたフランスは、この件で一生アメリカに頭が上がらない。現在はロシアが技術支援してるが、イランの国力は中東最大で有り、物理的な戦争はアメリカとて難しい。其処で編み出されたのが「文化的戦争」簡単に言えばイラン国内の若者に心理的攻撃を仕掛ける。原作と本作はその一翼を担ってる。

最たるものが映画「300」Gerard Butler主演のアレ。この作品が反イラン映画として世界中から非難されてる事を、どれ位の日本人が知ってるのか、と思うと薄ら寒く為る。イラン国連代表は、作品を厳しく糾弾「イラン人を邪悪と想定し、破壊の権化の様に描いてる。これはイランの誇り高き歴史、及びイラン人民に対する侮辱だ」。国連での発言を受けたワーナーのコメント「我々はいかなる文化や国民に対して侮辱する意図は無い。この映画は歴史ドキュメンタリーでも無い」アメリカがイラン国内の詩人や作家を後方支援してるのは明白で、映画も確信犯なのは疑う余地すら無い。

ペーパーバックは妻の視点で描かれており、映画もSalma Hayek、相変わらずお美しい、の出演が先に決まり、共演が2ヶ月決まらない事態に陥ったが、オスカー俳優Adrien Brodyに落ち着いた。本作で不思議なのは、映画を作るメリットが全く見当たらない。本編の大半は拷問シーンで「何が面白いのか」と疑問を持たれたろう。制作したMillennium Filmsは「メカニック」「エクスペンダブルズ」「ランボー/最後の戦場」と筋肉系が得意な会社だが、今は中国資本に汚染されてる。中国がユダヤ人を支持するとは思えず、誰かに騙されてる。

モャッとした所で本編が終わり、エンドロールを見て腹を抱えて笑った。其処にはプロデューサーGerard Butler、Alan Siegelの文字が!。Gerard Butler「300」主演の人。彼は生粋のスコットランド人だが、アメリカのプロパガンダに協力的なのは有名で、作品の多くはアメリカ万歳!。インタビューでユネスコの「300」抗議デモを聞かれても「連載マンガでフィクションだよ」と意に介さない。Alan Siegelも大物プロデューサーで「エンド・オブ~」人気シリーズの制作責任者。初めから儲ける気なんてサラサラ無い。更に言えばAdrien BrodyもSalma Hayekもプロデューサー、つまり出演もバーターなのだ。

本作や「300」はイランでは「カルチャーNATO」と呼ばれ警戒されてる。アメリカの心理的、文化的搖動は着実に効果を遂げ、イスラム教を支持する若者でも、イランが西側諸国から経済制裁を受け、外交ルートが有るのは日本だけ。世界的に孤立してる事をネットで知ってる。同じ産油国のサウジアラビアが原子力発電所を建設、今はそう言う時代なのだ、

其処まで知った上で見ると、また別の感想も有るかもしれない。Adrien Brodyの顔芸だけでも見る価値有るかも。
幽斎

幽斎