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映画 夜空はいつでも最高密度の青色だのkrhのレビュー・感想・評価

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自分はその他大勢に違いないし、そのつもりでいる。でもその他大勢には馴染めない。馴染めない程に変わっているけど、何者でもない。馴染んでいる大勢の方が異質にも見えて、自分は大勢の真っ只中で決定的に孤独である。
こういったある種の厭世的な感覚は、都会を知る者なら多かれ少なかれ共通して持つと思う。そして、何かを失っていく中でも、特別な何かを掴みたいと、漠然と思っているはず。
この映画で、自分にも何か掴めるかな…とぼんやりと希望が持てるかもしれない。人によっては。

美香のモノローグは詩の引用であるし、慎二や美香がまくし立てるセリフは非常に舞台演劇的なもの言い。それらが現実離れしているために、映画の中でも浮いている感がある。その一方で、着ている服や持ち物の感じ、それぞれの生活感が細やかに垣間見える部屋など、かなりリアリティに溢れたものになっていて尚且つ説得力がある。
(ティッシュの箱に文庫本を収納すると便利というライフハックを思わず得てしまった)
フィクションの側とリアリティの側を行ったり来たりさせられて、気持ちの落ち着かなさ、身の置き所のなさが増幅するような感覚がある。

社会情勢と自分に近いものとを交互に提示して、広さと狭さの極端なフォーカスを行ったり来たりさせるのも印象的。ある場面では、最後に気持ちにグッと焦点を寄せ、ついに慎二が駆け出す瞬間は若さと青さがドライブする。

映像作りも詩的な演出が多く、印象的な画面がいくつもあった。青色を強くした夜景や、役者のアップに青い光を映す、青を意識した画面。タバコの火が街の灯りになったり、川面の揺れが陽炎で揺れる病院の廊下になる、シーンの移り。途中に挟み込まれるアニメーション。

しかし、美香が言っていることとやっていることに、明らかに筋が通っていないようなものが多くて、途中で辟易してしまった。セリフ1つずつあげたらキリがない。言っていることそれ自体は身につまされるほど分かる、分かるからこそ、それが効果的に聞こえるよう映画のセリフとしての理路整然さは欲しかった。
私は捨てられた。あなたは私を捨てた。どうせ捨てられる。相手にばかり期待をして、悪いのも社会のせいでみんなのせい。
「私は無視される方だ」には、そりゃそうだよ!!こういうとこだよ!!気持ちはわかるけどさ!!と突っ込んでしまった。

最後も募金かよ!と思ってしまった。要点は募金の部分じゃなくて、ちゃんと生きて、当たり前にできるようなことを、当たり前に日々やっていこう、ということなのは分かる。でも募金しようって言っちゃうのか…泣いちゃうのか…という感じ。

あの謎のミュージシャンはあれだけ微妙だからこそいいんだろうと思う。耳には残った。

ティーンの頃に観ていたらぶっ刺さっていただろうと思うけど…自分は現実を見据えてしまう大人になってしまったらしい。
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