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映画 夜空はいつでも最高密度の青色だのKEYのレビュー・感想・評価

3.6
「夜空はいつでも最高密度の青色だ。」

このタイトルからもパッケージからも、一切内容を想像出来ない。

今作は最果タヒのストーリーの無い詩集の映画化だが、詩的なセリフや映像表現全てで最大限に詩の世界を表現出来ている。
実際原作を読んでないので比較して言ってるわけでは無いのだが、少なくとも僕は今作で最果タヒの世界観が掴めたし、詩集も読んでみたいと思った。

物語は石橋静河と池松壮亮が演じる男女のラブストーリーなのだが、詩的なセリフが多い為非常にわかりにくい。
しかもこの2人の会話のほとんどが、世の中に対する不満や愚痴、疑問なのである。またその疑問に対しても、疑問で返したり、「わからない」と返したり、一向に答えが出ないのだ。

そこで、「答え」「結論」の役割を果たしているのが映像としての表現である。
池松壮亮演じる主人公の同僚、出稼ぎのフィリピン人の住むアパートでパーティーを開いてる最中、カメラはそのまま横にスライドし、隣の部屋に住む学生に当てられる。勉強中に壁越しに聞こえる音楽に苛立ちを隠せない様子。
この学生は劇中二回登場するのにも関わらず、ストーリーには一切関係しない。

自分が辛い思いをしたり、悲しい思いをしたり、逆に楽しんでいたりしてる間、東京に住む何万人、日本に住む何億人かの人々も同じ様に過ごしている。もしかしたら、今自殺をしようとしているのかもしれない。もしかしたら、今好きな相手に告白しようとしているかもしれない。
自分が幸せを噛み締めている間、誰かは傷つき、死んでいるのかもしれない。
そんな一つ一つの可能性を汲み取って、何も行動しない理由にしていたら、自分には一生幸せなんて訪れないんじゃ無いか。

「頑張れ」「頑張れ」

劇中に何度か出てくる歌が、今作の一番のメッセージだったのではないだろうか?

今作は、混沌とした渋谷、新宿の日常に、2人の男女の漠然とした絶望や不安を、映像表現として映し出せている。詩集の映画化と言うのはあまり聞かないが、その点記憶に残る一作だった。
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