イルーナ

ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺんのイルーナのレビュー・感想・評価

4.4
シネフィル界隈で話題になっていたアートアニメ。
人物や背景の輪郭線を一切廃した、凛としていてシャープな絵柄。まるで絵画のような色合い。
一見シンプルですが、光や陰影の表現が絶妙で不思議と立体感があり、その表現力には圧倒されるばかり。
そのため、自然の荘厳なまでの美しさや厳しさがすごいことになっています。

北極探検に行ったきり戻ってこない大好きな祖父。乗っていたダバイ号の捜索は実質打ち切り状態。
残されたメモからこれまでの捜索場所が間違っていたことに気づいたサーシャは、祖父の名誉を回復するために、ついに北極の旅へと飛び出した。

ストーリーはオーソドックスですが、ほぼ全編に渡ってシビアで常にある種の緊張感がある。
いくら聡明で行動力があると言っても、やはり貴族出身で世間ずれしているため、常に困難が付きまとう。
ましてや行き先は北極。周囲からナメられまくる。
(そもそもわが子がいきなり北極へ家出したら、世の親御さん方は真っ青になりますよね)
それだけに、酒場の女将さんのオルガ、いい人すぎる……地図を見ただけで彼女の意志の強さを見抜き、厳しくも愛情を持って接する。
住み込みで働いて一人前になっていくパートは、本作では貴重な温かさを感じられる部分でした。

そこからいよいよ探検に出発するわけですが、ここからが本番。
船員との関係もカッチ以外張り詰めたものがあるのに、自然の猛威が本格的に牙をむき始める。
船は大破し遭難。やがて食料も尽きてきて船員たちの精神が崩壊していく所とか、ヒエっとなりました……追い詰め方が生々しい……
作中で何度も言及されたとおり、サーシャがいなかったら船員たちも北極まで行くことはなかったから、一歩間違えば彼女の存在が多くの犠牲を招いていた。
シ、シビアだ、あまりにもシビアだ……

しかし、彼女の強い意思が道を切り開いたのも確かだった。
極限状態における人間の闇をまざまざと見せつけられ、猛吹雪の中飛び出していったサーシャ。
やがて猛吹雪が止んだ時に見たもの。それまで生々しい展開が続いていただけに、夢?とも錯覚するほど幻想的にすら感じられる「再会と別れ」。
祖父は別れ際に「次の探検は一緒に行こう」と語っていたけど、きっと“一緒に”旅していたんだろうなぁ……
そして思いが託され、心の中でいつまでも生き続ける。こういう物語にはやはり弱いです。

しかし、あれだけ濃密だった旅路のわりにEDがやけにあっさりしてるなぁ……と思っていたら、TV放送ではカットされていたらしい。
配信があったらまた確認しないとな。って、レンタルしかないのか……
イルーナ

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