青乃雲

ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択の青乃雲のレビュー・感想・評価

4.0
ケリー・ライカートの文芸志向と、映像作家としての才能が、美しく溶け合った作品のように思う。

原題は『Certain Women』。かの地によく見受けられる即物的なもので、日本語にすると「ある女たち」くらいだろうか。時代の気配のなかに、自身の影を落としながら、女であることを歩いているようなそれぞれの姿は、英語の「certain」が示す通りの何かを、よく表しているように思う。

マイリー・メロイという小説家の短編小説を、3作品つなぎ合わせた脚本は、彼女自身によるものらしく、その構成的な語りに上質さが宿っている。また、その巧さは映像の質感にも表れている。

アメリカの田舎町に暮らす4人の女たち。面倒なクライアントに手を焼いている弁護士のローラ(ローラ・ダーン)、夫とも娘とも上手くいかず新居を作ることに没頭する主婦のジーナ(ミシェル・ウィリアムズ)、夜間学校で法律を教える弁護士のベス(クリステン・スチュアート)、孤独に牧場で働くジェイミー(リリー・グラッドストーン)。

1)キャリアを重ねた中年女性
2)平凡な中年主婦
3)キャリアを形成する若い女性
4)平凡な若い女性

構成的には、こうした4人の女性像を描いており、直接的に触れ合うことになるのは、3)と4)の若い女性2人のみ。しかし彼女たちは、それぞれの孤独を固有に生きており、オムニバスという群像性のなかで深く触れ合っている。

ある女は苛立ちのなかに、ある女は空虚さのなかに、ある女は無関心のなかに、ある女は素朴さのなかに生きている。基本的に彼女たちは、誰ともつながっていないし、何かを信じるようにも生きていない。

人との触れ合いという水平関係についても、何かを信じるという垂直関係についても、彼女たちはそれぞれに孤独な状態であることが描かれている。そのため物語としては、彼女たちがどこかへ向かうこともなければ、何かに救われるということもない。

だからこそ、ここには静けさのもつ、本当の意味や価値が表れているように感じる。映画を観ている間は、感情移入するように、4人の女性たちそれぞれの境遇や心情を微分するように味わっていたものの、観終わったあとに残ったのは、むしろ積分されるように映し出された、静かで孤独な粒子の集積体のようなものだった。

ラストシーンに描かれる、4)のジェイミーが働く牧場の朝のシーンほど、孤独と静けさのうちに祝福があることを描き出したものは、それほど多くはないように感じる。また、これこそが、映画という語り(ショット)がもつ力だろうと思う。
青乃雲

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