緑青

否定と肯定の緑青のレビュー・感想・評価

否定と肯定(2016年製作の映画)
4.1
立場の複雑な映画だと思った。その複雑さを保ったまま、「正しい」ことだけを言おうとする姿勢がよかった。好きな映画です。胸が抉られそうになるのを、ひたすらに耐えて直視したい。

アメリカ在住のユダヤ人の歴史学者にイギリス人のナチス信奉者がイギリスで訴訟を起こし、それをイギリス人が弁護するという2000年の実際の裁判を描いた作品で(ひとつの裁判にこんなに時間がかかるのかと改めて驚いた)、その内容も「ホロコーストの否定」を覆さねばならないというものであり、まずその前提からかなり屈辱的というか、ちょっと心が折れそうになった。
さらに、この場合ホロコーストの否定は学問の否定でもある。リップシュタットはホロコーストの研究者として、ユダヤ人として、女性として、「学者」として、学問に誠実に、証拠と論理と人間らしさを手に、裁判を受けて立った。
私は弁護士の仕事をよく理解していなかったし、今でもわかっていないけれど、「良心を他人に委ねる(=黙ったまま、ただ裁判を聴く)辛さがわかるか」という彼女の問いが刺さった。誰かの良心を託され、それを守るために、ルールに則って「裁判に勝つ」仕事なのだなと思った。たとえそのやり方が門外漢にとって無感情に見えたとしても。ああもう、本当に、「当事者」抜きで何をしているのだ?という気持ちは痛いほどわかって、一方で弁護人側の「意味のない屈辱に合うだけだ」という、かなり第三者的な人権の保護の仕方に頷いた。そういう意味でイギリスだからできた裁判だったかもしれない。
あなたたちは記憶される、という最後の言葉を、ずっとずっと覚えておきたい。

弁護団の役者選び(と、もちろんアーヴィング)の手堅さ、BBCの十八番だった。アンスコさん本当になんだろう、素晴らしいんだよな。不意にマーク・ゲイティス兄さんが出てきて息が止まった。

それにしても、邦題が明らかにおかしくて動揺した。この映画の基礎はたぶん、「物事には『2つの意見(見方)がある』と言ってはいけない時がある、だって片方は『意見』ではなく『嘘』だから」というところにあって、原題だって「否定」なのに、何故「肯定」を足した????なんの意図が???ものすごく説明不足なのでは……。

円盤と原作を速攻で買ってしまった。あぁぁ。また見返したいと思います。
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