緑青

ミッドサマーの緑青のレビュー・感想・評価

ミッドサマー(2019年製作の映画)
3.7
面白いか面白くないかでいうと面白い映画だと思うし、もしアリ・アスター監督から一回ホラーとか悪魔信仰とか民間伝承とか死体表現とかを取り上げて、テーマ「家族」でがっぷり四つさせて映画撮らせたら、これの100倍エグくて怖い映画を撮る気がするなと思った。グロとかエロ(くはないが)とか、派手な画面とかでむしろ脚本の本質的な嫌な感じから気が紛れるようにできている。人生真面目に真剣に解像度上げて考えるとクッソしんどいよね〜〜という感情を三回転半くらい変換させて表象した結果があの祭りである感じ……あの祭り抜きでそれぞれのクソさを丹念に現実世界舞台で説明されてみたら、絶対に観られないこと請け合い。ホラー映画のセオリーをしっかり踏んでいる印象だったので、この映画を撮った人は凄くホラーが好きなんだと思うし、ホラーに救いを求めて生きてきたんだろうなと思うし、ホラーのことを現実のしんどさをマイルドな言い回しにする術のひとつだと認識しているのだと思う。
怖いシーンより前に人間関係の気まずさにウェェ〜〜となった。この追い詰められ感とか精神不安定感とかどうしようもない喪失感とかに覚えがある人はホルガ村に着く前に一回心折れる気がする。めちゃくちゃ疲れてる時ってああいう、記憶が順番の間違ったスライドみたいにパパパと挿入されたりとか時系列の混乱があったりとか見えるはずのないものが見えるはずのない見え方したり聴こえないものが聞こえたりやけに一定の内容に拒絶反応が起こったりするのは分かる。ダニーはもうちょっと心穏やかになれる人間と心穏やかになれる土地で心穏やかに過ごした方がよかった、そもそも日常生活もままならないくらいの精神状態だと思うから……。
あと博論のテーマ被せに本気で「は?」て声出た、適当に決めるんじゃありません……!!
フローレンス・ピューは本当にすべてのコマで最高だった。
アリアスター監督作品をここまでで長編2本と短編を1本観て、とりあえず「家族」と「性行為(繁殖行為)」というふたつの状況が、実際には同時に発生していることも多いのに社会における概念としては対極的なものとして置かれている違和感にめちゃくちゃ敏感な作家さんなのかもしれないみたいなことを考えた。ミッドサマーでちょっと不思議だったのは、「恋愛」という段階があの生殖システムに入り込む余地ってあるのか、ということだった。形式としては家族の中で恋愛して生殖行為をしていることになるが、それは「恋愛」の体をとる必要があったのか? 愛という名前をつけたものがいろんな依存関係や執着や認知の歪みやシステムであるということをひたすらひたすら描いてくる監督、という印象になってきた。
あと、これスウェーデン側からこんなんアメリカ舞台でやれやこの手のこと山ほど発生してるだろうがよみたいなお怒りいただいてもおかしくないと思うんですけど、KMSSのときもGCのときもめちゃくちゃなファンタジーを託されていたので、欧米圏における日本的な立ち位置なのかもしれない……。

自分でもよくわからないけどアリアスター作品観ると京極堂を呼びたくなる。綺麗に憑き物落とししてくれそう。とりあえず出てくる学生全員ばっさり批判して叱ってください。以上です。
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