イチロヲ

おんな極悪帖のイチロヲのレビュー・感想・評価

おんな極悪帖(1970年製作の映画)
4.5
下屋敷の権力を掌握した側室(安田道代)が、自分の幼い息子に家督を継がせるべく、上屋敷の奥方(小山明子)暗殺を企てる。谷崎潤一郎原作「恐怖時代」を映像化している、大映のピカレスク時代劇。

谷崎文学特有の「女のしたたかさに拝跪する美学」が全面的に打ち出されている作品。堕ちるところまで堕ちたから「その後はひたすら昇るのみ」の精神を滾らせている側室が、男を蕩かす女体と打算的な思考能力を駆使しながら、口八丁手八丁で世渡りしていく。

いわゆる「善人」と呼ばれる者がまったく登場せず、出世、昇進、見返りなどを行動理念にしている、強欲な人間たちによってドラマが構成されている。男女関係に関して述べれば、おしなべて女性主導であり、男性が逡巡する側に立っている。

俳優陣では、乱心状態がデフォルトになっているキチガイ大名(岸田森)と、昇進のためには恋人すら斬り捨てる下級武士(田村正和)が印象に残る。俳優諸氏の一挙手一投足とグロテスクな人間模様に、この上ないほどのインパクトが備わっている。
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