つるみん

君の名前で僕を呼んでのつるみんのレビュー・感想・評価

君の名前で僕を呼んで(2017年製作の映画)
4.2
恋をする美しさや不安、そして胸の痛み。愛や性を映像、音楽、セリフといった多方面から全肯定し、親の子供を愛するという事の覚悟、傷つけてしまった女性との向き合い方までも丁寧に仕上げてある。最初から最後まで1つの〝映画〟としてここまで詰まっている作品にただただ感動するしかない。
主人公2人に限らず色んな〝愛〟が散りばめられた、美しくも儚い宝石箱のような映画。

主人公はティモシー・シャラメ演じるエリオ。誰が見ても完全なる美青年。17歳なので美少年とも言って良いが、彼は何ヶ国語も話せる事ができ、ピアノとギターも弾きこなし編曲もする。そのルックスから女の子にもモテモテで、親が名誉教授とだけあって家にメイドもいるお金持ち。恐らく彼が過ごした17年は何不自由ないものだったのだろう。
そんな彼にとって初めて言葉では表しきれない、どうしようもない感情が沸き起こる。それは6週間だけ父親の助手として来たアメリカ人のオリヴァーに恋をするのだ。
この徐々にオリヴァーに惹かれる「恋する意識」の流れが繊細で、面白いほどに構築されていく。人は皆、自分自身が恋をしている時は〝いつのまにか〟好きになっていたというのが普通で、でも実はしっかり好きになる過程がある。
人は恋をすると愚かになる生き物だ。愚かになり愛し、それでもって終わりのないものなどないという喪失の意識までもを全力で表現している本作は〝愛し合う〟という事の原点を丁寧に見せられた感じがする。

それは要素として、過去の哲学者たちが提唱した概念を想起させていく事。それから本作に欠かせない音楽の効果があげられる。音や歌を駆使しながら、2人の距離や感情の揺らぎを巧く嵌め込んでいるため、大事に大事に作っているなというのが伝わってくる。

また、彼らの場合は条件付き。6週間という設けられた期間の上、同性愛という当時にしては、そう簡単に受け入れられない愛の形である。さらに言うならば、2人はユダヤ人同士。しかしそこを同性愛を認めないユダヤ教の〝壁〟と描いていない所に本作の意図が感じられる。
そう、これは社会的な〝壁〟ではなく自分の中にある〝壁〟を乗り越えるかどうかの話。
それと同時に言えるのがLGBTものとして相手への想いと自己との葛藤などと言うものは既存のテーマではあるものの、本作では〝LGBTもの〟という概念を変えた一作となった事は間違いないだろう。

煌びやかなイタリアの風景と夏という季節が様々な〝愛の形〟を表現する、なんとも奇跡的な映画だった。
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