【何ひとつ忘れない。】
例えば世界が彼等だけならば、恋愛はもっとシンプルだった。求めているから、食べたい、聞きたい、見たい、抱きしめたい。まっさらな思いは、好きと言う前に、それを愛と呼ぶ前に、ただ相手を自分のように。"君の名前で僕を呼んで。" 生殖のための本能だけじゃない。手を繋いでしまうのも、キスも、抱きしめてひとつになろうもするのも、それは食欲とかと同じような、幸いにして生まれもった美しい衝動。うだる暑さ、洗って干した下着、書き殴っては丸めたメモ、まとわりつく蝿。果実のようなエリオの感情は炎のようにじりじりと揺らぐ。満たされた時間も、煩わしさも、今は、何ひとつ忘れない。
"お互いを見出せたことは幸福だ"
Call me by your name