このレビューはネタバレを含みます
心地よいイタリアの夏がゆっくりと過ぎてゆく。自分の普段の暮らしとは時間の流れ方がまったく違っていて、どこか幻想的でとにかく美しかった。
劇中に登場する桃、西洋の花言葉は「私はあなたのとりこ」だそうで、なんともエリオにぴったりだなぁと。英語圏だと「ふしだらな女」という古い?俗語でもあるらしい。こちらもちょっと思い当たる場面がある。
(なんとなく観たときはアプリコットだと思っていたので、そちらの花言葉を調べてみたら「臆病な愛」「疑い」「疑惑」となんとも不穏な言葉が出てきました。)
あの時代において、エリオの恋心を父親が否定しないところがすごく素敵だと思った。でも最後に「自分の婚約を伝える」という行動でエリオの恋心を否定してしまったのはオリヴァーなのかもしれない。
電話で「自分の父親だったら矯正施設送りだ」という言葉もエリオの父親の寛容さを讃えるようでいて、それとなくエリオを突き放すみたいで残酷だと思った。
エンドロールに入る直前の、ごく自然な母親の何気ない一言で本当にエリオの恋は完全に失われてしまった気がして胸が締め付けられた。これから先、「エリオ」という言葉は自分のことだけを意味するもので他の意味を持つことはないし、も愛しくて焦がれるような思いで発することももう二度とないのだろう。「僕の名前で君を呼ぶ」機会は永遠に失われてしまったのが切なかった。
大人はずるいなぁ。