otomisan

ハイエナ・ロードのotomisanのレビュー・感想・評価

ハイエナ・ロード(2015年製作の映画)
4.2
 これは、軍師と前線の兵との判断のせめぎ合いについての話。コンピューター・探査・情報・通信技術の支えで後方の指揮指令が戦闘現場に常時介入できる事の良し悪しと現場に下駄を預けられなくなった戦闘の厄介さを見せる話。そして、情報が豊か過ぎたりアンバランスな状況、利便が良くても制約も多い状況での短期戦の難しさを物語るはなし。
 兵の作戦行動と言っても、勤め人が不適合を起こすな、倫理規定に外れるなと言われるのと同じで、予定の行動はもちろん緊急行動でも、組織的管理下で情報支援の便を受けながらも時には弾一発撃つにも交戦規定上のチェックを受ける戦闘現場の厳しさが透けて見える。しかも優秀な機材装備情報源があっても、作戦立案の基本要件であり、キーパーソンである謎の人「幽霊」の政治的社会的背景、利害、思惑や動きを短期間に読み切る事は難しい。軍師の見通しも現場の兵の切迫事への応えも、どちらの判断が正しいか、また、やった事しなかった事が何をもたらすか開けてみないと分からない。
 新聞テレビでは政府、タリバン、派遣軍ぐらいしか見えてこないが、この現場には更にタリバンにも派遣軍にも利害の二股を掛けるBDKのような地元有力者がいて、「幽霊」のようなタリバン戦闘部隊にも幅が利く対ソ戦争の伝説的元闘士の民間人もいる。現場で悩みの敵味方を整理するための最適解は、裏切者BDK一味の排除なのだが、これを短期間の作戦で達成するにはどうするか?
 そのために役立つ「国民の甥っ子」のような情報屋ハジや軍師:ポジション不明の情報将校がいて、戦闘現場での場面最適行動ではなく、戦局全般を見渡した行動の選択、つまりBDK対幽霊の角逐や、BDKとタリバンの癒着や、BDKの一般住民への不寛容な姿勢、パシュート人古来の掟の尊重など状況と背景を考慮勘案した終着点、BDKと幽霊の対立を利用して土地の掟通り幽霊にBDKを始末させるべく誘導支援する作戦が決まる。
 しかし、状況把握が正しくても駒が思うように動くとは限らない、戦況把握も十全とは限らない。果たして目的は達成しても、担当小隊の全滅、当てにしたかった幽霊の喪失が引き合うものだったろうか?
 BDKの後釜は直に頭角を現すだろうし、幽霊の容易に死なない血は一族に受け継がれ不逞のBDK退治は伝説となり、不思議な目の静かな狼のような男がまた時を経て現れるかも知れない。その時彼はどちらに着くだろう?
 パシュートで暮らす人にはたっぷり時間があるんだそうで、誰が生きようと死のうと、また良くも悪くも衣鉢は次の誰かが受け継ぎ、このろくでもない、いがみ合いを促す土地での殺し合いにも息の根を止められず誰かが生き延びて次のいがみ合いに備えていくんだろう。いや、死に絶えたら死に絶えたで、どこかの粗忽者がうかうか迷い込みいがみ合う相手を待つようになるのだろう。しかし、世界が一体で動くと教わり地球の裏側から呼ばれた兵が、そんな忌々しい運命に引き回される理由は何だろう。アフガンと一体なカナダで兵役に就いているからか? 兵が引き金を引く事とはファインダー内の敵対行動に対処する事で十分だろう。軍師の大局観と交戦規定に縛られた非現実的判断の言いなりになる事では無い。勝手に違いないが身勝手なりとも正義感や共感を押し通さずこんな現場に居られるだろうか。そう思わずに居れないしこりを感じる割り切れない話だった。
otomisan

otomisan