寂れた地方都市が移住受入の一環として6人の仮釈放受刑者を招き入れるが、全員が一癖も二癖もある殺人犯だった。受け入れは行政主導による過疎化対策と刑務所コスト削減との一石二鳥プランという設定が嫌に現実的。社会問題をフィクショナルな展開もおりまぜることで飛躍させ、より深みを醸成することが得意な吉田大八監督の面目躍如。
死亡事故なども発生し、町民の疑心暗鬼がヒリヒリ感を生むサスペンスな展開を見せるのは大方の予想通りだが、中でも最も底が見えない元受刑者を松田龍平さんが演じているというのがポイント。
殺気あるミステリアスが多かったデビュー初期から段々と朴訥演技にシフトチェンジしてる過渡期の作品なので、まさにどちらとも受け取れる二面性が存分に発揮され双方ともが本当の表情に見受けられる。
サイコキャラの解像度と恐怖を高めるためには、彼らの「紛れる」能力をいかに描くかが重要となるが、それに対し松田龍平さんの性格俳優としてのターニングポイントをピッタリあてはめたチョイスの勝利。
「普通に恋愛や友情を育み幸せに暮らしたい。でも自分を邪魔する奴がいたらどうしても殺してしまう。僕はこんな僕以外にはなれない」これだって多分サイコパスの二枚舌ではなく、搾り出た本音なんだろうと思わせる説得力が抜群。
となると変な同情心みたいなものも芽生えかける。シリアルキラーもなりたくてなったわけではないのか。だからと言ってそこに寛容になりすぎるのもどうなんだ?ただ過去に良き出会いがあればこうなってなかったんじゃなかろうか。ぐるぐるとした鑑賞後感が残る。
ーーーーーーーーー
別に殺人犯受け入れプロジェクトがなかったとて、みんなの生活には大なり小なりの闖入者が存在しており、それが招く疑心暗鬼の中で生きざるを得ないという現実も確かに存在する。
となると今作の設定もそう突飛なものでもなく感じ、今作の葛藤描写は実は普遍的なのかもとか思うと余計にモヤっとする。つまりあと引く印象的な映画体験であり、やはり吉田大八監督の原作モノは苦い方面に一味変えてくる。
ーーーーーーーーー
お祭りの寄り合いで6人が勢揃いしたとこはかなりゾクゾクした。でも松田龍平さん以外のキャラ立ちはそこがピークに感じたのは正直なところ。序盤の語り口と豪華キャストによって見事に不穏でワクワクさせてくれただけに、もう少し他受刑者も深掘りしてほしかった。でも時間的に厳しいのもわかる。実はドラマ向きだったんじゃかいかともふと思ったりもした。