金宮さん

まるの金宮さんのレビュー・感想・評価

まる(2024年製作の映画)
3.5
美大出身だがアート関連の仕事では泣かず飛ばすの主人公沢田。そんな彼がやけっぱちで描いた◯の一筆が「円相」と解釈され輪廻や死生観など様々な意味が付加され独り歩きし、作者自身が戸惑うほどの名声を得てしまう。

不意に発生した儲け話に対してもどこか乗り切れない沢田。ただ生活のために描き続けることは芸術家としての矜持に反していることが本人の態度からうかがえ、意図せず世に出始めたことでようやくそのことにじんわりと気づいていく。

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荻上直子監督はいつだって生きづらかったり実存を感じられない人たちの等身大の救いを描いてきたが、今回は「本当につくりたいものとは?そもそもなんでつくりたいのか?」という創作に関する悩みがメインとなっており、クリエイターとしての監督自身の考えがより直接反映された内省的な印象を受けた。

作中で沢田は紆余曲折を経て「生きている実感を感じられるから」という、アーティストとしてのアイデンティティに気づき涙を流すが、その後はどことなくスッキリしたように見える。正直、表現者ではない私がすっかり感情移入できたかというと微妙なところだけど、横山やモーとの何気ない会話がその境地に至る手助けとなっていることはわかる。

荻上作品に登場しがちな何かしらの共同体とまでは至らずとも、人との出会いが悩みからの解脱に繋がるというテーマは監督作品から一貫して感じる作家性であり今作でもその爽やかはしっかり享受できた。

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何者でもない存在が一夜でとんでもなく有名に。しかも作り手も受け手も、その原因となった作品のどこがいいのかよくわかっていない。この一連がSNSにおけるバズりを意識したものなのは明確だと思うが、その描写が露悪的すぎないのが個人的に好印象。

ネット描写となると目の敵のように悪者にしたてあげる作品が多い中で、今作のさわだファンの態度はある程度常識的。だからこそ、謎の円相バズりに少しは乗っかったり、そのうえで本当にこれでいいんだっけと悩む沢田の言動に観客は乗っかれるようになる。
金宮さん

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