段ボール箱

ムーンライトの段ボール箱のレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
4.8
「月明かりの下で黒人の子供の肌は青く見える」

困難な境遇に生まれついたシャロンはコミュニティの悪意と親の身勝手な愛に傷つき、いじめられ、苦しみを訴える十分な言葉も持たない。

黒人であること、社会の下層にいること、性的マイノリティであることを抱えていても、自分の道を決めるのはあくまで自分なのだ。それを教えてくれたのは恩人と親友の愛であり、彼は繊細さを内包したまま、恩人の姿さながらに逞しく成長する。そして大人になったある日、親友と再会することになる。

3章それぞれで異なる照明効果をデザインし、特に人物の肌のうつりにとてもこだわったとインディワイヤーの記事で読んだが、子供時代の張りや青年期の艶など、肌の色がとても印象に残った。月明かりの下で黒く青く、艶やかに光る肌は黒人だけが生まれ持つものだ。

シャロンがフアンに泳ぎを教わるシーンやシャロンとケヴィンが寄り添うシーン、かつて老女に「ブルー」と呼ばれたフアンの回想など、海が重要な要素として何度も繰り返し出てくる。
海だけは変わらずずっとそこにあり、幼少期のシャロンが最後に振り返るシーンも海である。
その肌は、月明かりに照らされ青く輝いている。

シャロンを演じた3人の俳優はそれぞれの演技を真似しないよう、撮影期間中決して会わぬようスケジューリングされていたそうだが、そうとは思えないくらいどの時期のシャロンにも彼の繊細さが見て取れた。少ない台詞と佇まいだけで彼のパーソナリティを演じきっており、俳優の力を実感した。

いつか一番良い時期に観ようと思いつつずっと取ってあった作品。
今観られてよかったと思う。映画館でのリバイバル上映があれば必ず行きたい。