まがれっと

ムーンライトのまがれっとのネタバレレビュー・内容・結末

ムーンライト(2016年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

備忘も兼ねて大方のあらすじ。

主人公のシャロンは少年時代、同級生にいじめられる日々を送っていた。
ある日、とある廃墟で懐の深い大人、フアンに出会う。
まるで父のように寄り添い、導いてくれたフアンは一方で母親を地獄に落とした薬物の販売を生業としていた。
そのことをシャロンに指摘され、後悔とも悲しみともつかない表情でうなだれるフアン。フアンはやむを得ない事情でそのような職業に身をやつしていたのかもしれない。そんな彼を、パートナーのテレサの手が優しく包む。
ここには家族としての思いやりに満ちた愛が溢れている。

やがてフアンがこの世を去るが、本当の母ポーラはますます薬物に心を蝕まれシャロンに金を無心する。
テレサへの暴言を吐くポーラの心の奥底には、まともな育児ができない自分へのいらだちや、売人のパートナーであるテレサになつく、我が子を取られたような嫉妬心も多少なりともあったかとも想像する。
そんな鬱屈とした毎日の中で、性の目覚めをケヴィンに対して経験し、心が開ける唯一無二の友とも恋人とも取れる人物に救われるシャロン。

だが、一方でシャロンへのいじめはますますエスカレートしていった。
ある日事件が起こる。レゲエの同級生がシャロンにターゲットを定め、ケヴィンが彼を打ちのめすというゲームを仕掛ける。
この残酷な仕打ちにシャロンの心の糸が切れる。渾身の恨みを持ってゲームを仕掛けたレゲエを殴打した。それがどんな結果になろうとも。

やがて少年院を経てタフな自分に生まれ変わろうとしてきたシャロン。
成長した彼は自分を過酷な環境に追いやったものの、憧れの人物が携わっていた薬物の売人となる。決して世間に胸をはれる職業ではないが。
やがてかつての友からの連絡に胸が高鳴る。そしてようやく心からの安息を得るのだった。

血縁上の母と血の繋がりはないが本当に愛に溢れた家族との対比が主軸となることなく、売人から足を洗って「正しい」人生を歩むでもなく、
そこにステレオタイプな正義など存在せず、淡々と主人公の成長を描いているところが素晴らしいと思った。
また、俳優陣の演技もまた素晴らしかった。
フアンの目が深くて優しくて、暖かかった。