ローズバッド

女神の見えざる手のローズバッドのネタバレレビュー・内容・結末

女神の見えざる手(2016年製作の映画)
2.0

このレビューはネタバレを含みます


話はさておき、見た目が退屈じゃないかな?


あまりの世評の高さに、あわてて最終日に駆け込んだけれど、正直、そんなに面白いのかな?
脚本に面白さの比重のほとんどがあるタイプの作品は苦手かもしれない。
めちゃくちゃ情報量の多いマシンガントークで物語を転がしていく会話劇、レビューを書こうにも細部を思い出せない。
映画に何を求めるか?という好みの問題ではあるけれど、僕は、物語や起承転結は、結構どうでもよくて、どんでん返しにも、さほど興味がない。
たとえ物語が退屈でも、演出の妙だとか、映像表現の楽しさに浸れれば満足する。
まぁでも、これだけ評判が良いということは、僕が偏屈なだけなんだろう。
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「丁々発止で相手をやりこめる」とにもかくにも、この場面が続く。
会話のスピードが速く、字幕を読んで話を理解するのがやっと。
細かい演出も見逃さないよう心がけたが、なかなか大変。
あまり憶えていられなかったが、たぶん、面白い演出のシーンは、ほとんど無かったように思う。

大半が無機質なオフィスのシーンで、登場人物のルックスもビジネス仕様で面白みがない。
スローンのファッションは、ハイブランドで揃えてリアリティを追求しているらしいが、だからといって映像が豊かになるわけではない。
とりわけ男性キャラは、スーツ姿に面白みがないし、内面的にも魅力がない。
アシスタントのジェーンの眼鏡とニットはカワイイと思うが、ただ日本人好みのセンスなだけかも。

喋ってばかりで、アクション要素は皆無と言っていいかもしれない。
ちょっとしたクセや仕種の繰り返しで性格を表現したり、会話のジョークだけでなく、動きのギャグを取り入れても良かったのでは。
エスコートサービスのラブシーンも取ってつけたような、形だけのものでしかない。
男がベッドルームで待ち構えている登場の仕方も、その都度、変化をつけたほうが面白かったのではないか。

最大の見せ場、聴聞会で大どんでん返しをスローンが語るシーンは、カメラワークが単にダサくて、力がない。
ジェシカ・チャステインの演技も、名探偵が事件の解説をしているのと大差ないと思う。
このシーンには、“瞬間最大風速”の演技が必要だった。
スローンという人が「俗人と常識的な意思疎通ができる水準を超えてしまっている、根本的な価値観の違うプロフェッショナル、傍から見れば狂人」だという事を、顔の表情だけで表現し、背筋が凍るようなシーンであってほしかった。
その後の、傍聴人の大騒ぎも、上院議員のオタオタする姿も、ありきたりな演出な気がする。

字幕を読むのに追われる会話劇として、『スティーブ・ジョブズ (ダニー・ボイル監督版)』を思い出した。
あれも業界裏話モノだが、同じように脚本だけが突出していて、他の要素が退屈に感じた。
それに比べて、『ドリーム』も一般人の知らない専門分野の話ながら、動きのギャグや、楽しいファッションなどで、目で見て楽しい作品に仕上がっていた。

演出に何も見所が無いわけではない。
ちょっと奇妙なカットバック編集を使ったサスペンスの盛り上げ方をしている。
「聴聞会への打ち合わせと、聴聞会へ入る様子」など、時系列の違う瞬間を切り返して、テンポと緊張感を高めている。
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本作の最大の注目点は、スローンというヒロインの人物像だろう。
仕事のキャリアアップに執着し、怪しい錠剤を飲んで睡眠時間を削って働く、勝利依存症。
プライベートの充実には、まるで興味がなく、虚しさはエスコートサービスの男で埋め合わす。

彼女がなぜ、銃規制の側に力を貸したのか?
まさか「彼女にも、銃犯罪の悲しい過去があった」なんて、ベタなオチだったら嫌だな…と思っていたら、やはりその辺は想像の幅を持たせる締め方。

彼女にも「正しさ」を求める心があったのか?
かつてない「大勝利」を手に入れたかっただけなのか?
ロビイストという「虚業」そのものを破壊したかったのか?
虚業に疲れ果てた末の一種の「自殺」なのか?
虚業と知りつつも、その中で自分を駒にするほどの「プロの矜持」なのか?

これら全ての可能性が、実際、彼女の動機なのだろう。
このような主人公の動機を解釈しようと、似た物語を過去の映画などに探してみるが、なかなか他に無い。
『ハート・ロッカー』の、地雷除去のため再び死地のイラクへ戻る主人公の姿が、近いような気もするがどうだろう?
やはり、「心の底が見えない新鮮な主人公像」を創造した、脚本が一番の魅力だと思う。
それを、もう少し演出・演技で強調できたのではないだろうか。