きゅうげん

アンダー・ザ・シルバーレイクのきゅうげんのレビュー・感想・評価

4.2
マリファナ、セックス、動物、失踪事件。陽気なロサンゼルスを舞台に冗談みたいな陰謀に挑むグダグダ人間……。
……いやこれ、ピンチョンじゃねーか!
良くも悪くも『LAヴァイス』の下位互換、ポール・トーマス・アンダーソンの『インヒアレント・ヴァイス』の廉価版みたいな作品です。

くたびれた情けない系キャラの似合うアンドリュー・ガーフィールド、本作でも大活躍ですが、それを支えるトファー・グレイスとジミ・シンプソンの、忘れたころに「おっす」と現れる絶妙な友達感もナイスです。
(図らずも、アメイジング・スパイダーマンとヴェノムの共演)
やっぱり目につくのは、いかにも"ピンチョン的"な陰謀論描写とその論者。このてんこ盛り感(逆再生とか暗号解読とか)は大好物で、みるからにヤバい同人作家と"ひとりディープステート筒美京平"みたいな作曲家が最高です。
そんな作曲家が演説の合間にはさむ、名曲ピアノメドレーはなかなかオシャレ。

一方で"ピンチョン的"なものと一線を画すのは、物語の帰結が主人公のパーソナルな問題へ立ち返るところ。
「隣のオウムは何しゃべってるのか」や「家賃を納められるのか」などは、本筋である陰謀の追求そのものとは無関係ながら、それを経験した主人公はちがう姿勢で受けとめる問題になってます。そのような身近にひきよせるかたちの螺旋的な円環構造は、今風なあり方だとも言えるでしょう。

ただ、この映画に散りばめられているものに関して「解説」とか「考察」とかを併せて検索するのは、陰謀論を文字通りサジェストされるようなものなので注意が必要。
そういうものの安易な外部化・歪んだ内面化は、陰謀論者への第一歩と変わりないですからね。

それにしてもピアノメドレーもさることながら、劇伴にはびっくりしましたね。
半世紀以上前の映画ようなメロディアスなものもあれば、地下ダンジョンをみつけたり地図の謎を解いたりした時に流れる、往年のRPGを思わせる音楽も。ちゃんと内容に合いつつ、遊び心も感じられます。
びっくりポイントといえば、作曲家の豪邸がめちゃめちゃ時代を感じるバックドロップで表現されてたところ。陰謀のオチもあいまって、これは監督がハリウッドに捧げる挽歌ともいえるかも。
バカバカしいけど割とスキ。