せびたん

アンダー・ザ・シルバーレイクのせびたんのレビュー・感想・評価

3.6
本作の深みのあるライティングがめっちゃ好きで目が退屈しない!むしろ映像を眺める快楽に溺れてしまってストーリーが頭に入ってこないし。難解なストーリーがよけい気持ちを映像に集中させてしまうというスパイラルっ!

ヒッチコックへのオマージュはヒッチコックという故人の召喚と言ってもいいレベルのように思いました。
ヒッチコックが生きていたらこんな映像を撮ってたかもと思わせるような、ヒッチコックがこの監督に降りてきてるんじゃないかと思わせるような感じでした。

ヒッチコックつながりでゴダールもちょっと意識してたような。そしてたしかにリンチがやるような異形を登場させたりですかね。楽しかったです。リンチはもっと深いところからイメージ掴んできてるような気はしましたが。リンチレベルまでいっちゃうと商業映画の枠の外かもしれないので本作くらいがちょうどいいんでしょうね。

ストーリー的には今風のアンチロマンてことでいいんすかね。そう呼ぶほど前衛的ではない気もしてますが。前衛のあり方も時代とともに変わっていくので前衛でいいかなって。

ひとことで言いますと誰もがどこにも到達できない話なのかなと思いました。それは切ない話であります。どこにも到達しないし何も変わらないっていう。けどほんの小さな変化はあるし、リアルってそういう変化の毎日の積み重ねだから、そういう意味ではまあリアルな映画。なんのこっちゃ。詳細はコメント欄にネタバレで。


(以下はネタバレからの続きの文章)
何より監督自身もヒッチコックになることもゴダールになることもリンチになることもできないわけだし、監督自身はそれを分かりながらやってるっぽいところは好きでした。自分は自分であり続けるしかない。だったら自分のことは好きになったほうがいい。つまり私の生き方は間違っていない(笑)なんてことを考えました。

主人公はどうやら役者を目指していたけど、それで食いつないでいくのが厳しくなってる様子なのが描かれてました。
冒頭でリスみたいな生き物が木から落ちて息も絶え絶えになるシーンがありまして、本作の主人公はまさにそんな感じ。
ラストで安らぎを得たような様子で終わるのはカウリスマキっぽい。

あと正直言うとちょい長すぎで、映像が楽しいわりに物語は浅いかも。空間軸は90点で時間軸は30点くらいという私感。けど嫌いじゃない。むしろ好き(笑)。この監督の次回作も必ず観る、なんなら劇場へ行くというひねくれた愛情表現とスコア。
せびたん

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