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残像のaykのネタバレレビュー・内容・結末

残像(2016年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

スターリン体制下のポーランド人芸術家ストゥシェミンスキの受ける迫害と排除を描いた作品。

以下歴史的背景のメモ。第一次世界大戦中に成立した旧ドイツ帝国の傀儡政権を戦後クーデターにより(ストゥシェミンスキがシャガールとともに闘ったとされるのはおそらくこの時期)、共和制国家を樹立することに成功するも、第二次世界大戦下において一時ナチスドイツによる占領と国家消滅を経験したポーランドは戦後国家としては復活を遂げるも、今度はソビエト体制に汲まれ、共産主義国家となった。芸術にまでも全体主義リアリズムを強制する状況であった。

「物を見ると目に像が映る。見るのをやめて視線をそらすと、今度はそれが残像として目の中に残る。残像は形こそ一緒だが補色なんだ。残像は、物を見たあと網膜に残る色なのだよ。人は認識したものしか見ていない。」

この映画の冒頭で学生に語りかけるシーンだが彼の芸術思想を最も的確に表している。人は世界を目で視認し、脳で認識する。逆に言えば、脳で認識しなかったものは見てはいない。認知脳科学などでもよく耳にする話である。
作中、文化大臣が芸術家が描くべきものについて熱く語るシーンがあるが、彼はどのように"見"ていたのだろうか。

「政治と芸術の境界線がなくなる。」
思うに政治が社会の枠組みを作り上げ維持するものだとすれば、芸術がいわば政治を評価するものであったり、国家に属する民衆の心情を体現するものではないかと思う。いわば良識の府だ。決して政治の肩を持つものであるべきではないと思う。

「芸術家を苦しませる方法の一つ目は攻撃すること、二つ目は無視すること」
これも彼の発言であるが皮肉なことにその彼自身が社会から受けることとなってしまう。

芸術家としての信念を貫く様、権力を前にした時の個人の無力さ。「どんなことでもするから仕事はないか」とストゥシェミンスキが美術館長に言うシーンではそこはかとない虚無感を感じてしまった。どんなに信念が固くとも生きるということの生臭さよ。

映像はとても芸術的であった。特に色彩が綺麗。雪を被った墓場で青く染めた花を手向けるシーン、ニカが雪の降る街中で赤いコートを纏って走るシーン、ストゥシェミンスキの部屋に学生の絵がわぁっと飾られるシーン…撮影監督は大好きな作品、『戦場のピアニスト』を手掛けた監督であるらしい、納得。

この夏ポーランド旅行に行くため見ようと思った作品であるが、非常に完成度が高く、よき作品だと思った。
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