2006年に急逝した「竜馬暗殺」や「祭りの準備」等の映画監督、黒木和雄さんの戦争体験者の一人としての平和への想いを、幼馴染や身内、そして監督作品に関わった人々の証言を通して浮き彫りにしていく。
このドキュメンタリー映画では、黒木監督の戦争レクイエム三部作と呼ばれる「TOMORROW 明日」、「美しい夏キリシマ」、「父と暮らせば」、そして遺作となった「紙屋悦子の青春」の4作品を取り上げ、戦時下に少年期を過ごした監督の体験や想いが、これらの作品にどう反映されているのか、映画のシーンを織り交ぜながら紹介していく。
戦後70年以上を経過し、9条を中心に憲法改正の動きが現実味を帯びてきた昨今だが、黒木監督をはじめとしたドキュメンタリーに登場する人々は一貫して非戦、戦争を起こしても、加わってもいけないこと、平和や自由を守ろうと主張している。
戦争語り部の減少と共に先の大戦が遠い出来事のようになり、戦争の持つ狂気、悲惨さや理不尽さというイメージが薄らいでしまっているように思う。
このような社会風潮にこの作品は抗い、静かだが力強く「NO！」と声を上げている。
黒木監督作品は劇場やDVD等で何作品か鑑賞しているが、本作で改めて観直したくなりました。

戦後70年を機に故・黒木監督が映画に込めた非戦の意志を振り返り次世代に繋ごうと作られたドキュメンタリー。監督は「正午なり」（1978）の後藤幸一。

戦後80年目の12月8日＝かつて日本が真珠湾攻撃した日に鑑賞。

晩年の反戦四部作「TOMORROW 明日」（1988）「美しい夏キリシマ」（2002）「父と暮せば」（2004）「紙屋悦子の青春」（2006）を中心に検証し、生前の黒木監督や関係者のインタビューを収録。

地方テレビ局のドキュメンタリー番組のような真面目な作りだった。黒木監督の没後10年にあたり、彼が願った反戦平和を残された者たちが改めて主張するのが主旨だと感じた。

インタビュー出演は澤地久枝、田原総一朗、黒田征太郎、高野悦子井上ひさしなど。前年の安保法案反対集会での大江健三郎の演説も収録されていた。

尖閣諸島を巡って「中国と戦うべき」と主張する人々の存在について、田原総一朗は「戦争を知らない世代は武力を持ちたいと思うのかもしれない。しかし僕らの世代は、そうじゃないぞと、力で対抗してケリが付くわけがないんだと、いかに日本が力でもって間違いを犯したか、それを僕らは言い続けていかなければならないと使命感を持っています」と語る。

一方、日大芸術学部の授業で「美しい夏キリシマ」を観た学生たちは、戦争について、「今は平和なので実感が沸かない」「他人事のように思ってしまう」「過去の事なので自分の中で重みがない」と正直な意見を述べる。彼らはSEALDsと同世代だ。

10年前の本作の時点から現在の日本の右傾化が始まっていたことが伝わってくる。だからこそ本作が作られたのだろう。

自分も戦争を全く知らない世代だが、田原総一朗のインタビューに同意する。現在の日本では少数派にあたることも自覚している。

ぶっちゃけて言えば、高市首相の台湾有事発言を経てなお首相支持率70％以上をキープしている日本の現状にあきれ返っている。戦後80年の今年に、まさか世論が戦争肯定論に大きくなびくとは思わなかった。多くは無関心層と頭が空っぽな層だとは思うが戦前も同じだった。自分は死ぬまで戦争反対し続けようと、本作を観ながらあらためて決意を固めた。