やかじょ

サーミの血のやかじょのレビュー・感想・評価

サーミの血(2016年製作の映画)
3.0
何年か前に東京国際映画祭で賞を取っていたのは知っている。

サーミというのは北欧の北部でトナカイを飼い暮らす原住民のこと。
現代は事情も改善されているようだが、かつては劣ったマイノリティとして差別されていたそう。
超先進国アメリカでも黒人差別に対するデモが行われ、香港人の自由は失われつつあり、日本の同性愛者は結婚さえ認められないし、女性の生涯賃金は低いまま。
21世紀に入った今でもマイノリティに対する差別の問題はなくなっていない。

だとしても、サーミ人に対する差別はショッキングものだった。
思春期に体の様々なパーツの長さを測られ、裸の写真を撮られ、それはまるで動物の採取のよう。
サーミの能力が劣っていることは科学的に証明されている(⁉︎)ため他のスウェーデン人と同じ教育は受けられない。

でも結局みんなが見て判断するのはうわべだけ。洋服さえ着替えれば、スウェーデン人に溶け込めると思い実行するけど、それはある意味でイエスだし、本当の意味ではノー。いつだって、近づけば何かが違うと気づかれてしまう。


彼女は故郷の人たちのことを「物盗りだしウソつき、口を開けば文句や愚痴ばかり」というけれど、本当はマジョリティの人達がそういう存在だったはず。サーミ人の権利を剥奪し、一つの地に閉じ込め、自由にはさせてくれなかった。
だけど、彼女は自分の出自や被差別な人種であることを恨み、そうやって思うことで故郷と距離を取り生きてきたのだと思うと胸が痛い。
一方で、人類学専攻の女学生がヨイクの披露をねだるシーンがあるが、あれと同じようなことを自分がやっていないかと胸に手を当てて考えたくなった。
おそらく彼女らに悪意は全くなく、自分の経験としてねだっただけ。だけれど、サーミ人であることを隠し恥じて生き始めた彼女にとってどんなに辛かったか。
誰も傷つけずに生きていくことなど難しい。
私たちにできることとは。