都部ななみ

ライフの都部ななみのレビュー・感想・評価

ライフ(2017年製作の映画)
3.6
良作。SFスリラージャンルに含まれる概ねの魅力を無駄なく圧縮していて、未知の生命相手に宇宙基地で孤軍奮闘する緊張と閉塞感の充足、”この映画は『エイリアン』など著名な作品の再生産である”と妥当性のある指摘を加味しても、その価値を大きくは損じない映画だと断言出来ます。

粗筋は明快で、
ISSに搭乗する六人のクルーが無人火星探査機の回収任務を遂行し、その成果として採集した微生物:カルビンの蘇生/研究を進めるが、カルビンの生態は次第に攻撃性を帯びていき……と、古今東西に存在するSFスリラーの規範とも言える物語を展開する。

故に批判意見として『この映画はジャンル映画の再生産の域に留まっている』という声が挙がるのは納得で、本作を評価しながらも独自性や新鮮味に長けた映画とは私も言えないと思う。

では私の評価点が何処かと言えば、
そうした筋書きに対し、本作はそれ以上でも以下でもない最小限を意識したソリッドな作品作りが通底されていることにある。

登場人物の背景は最低限、カルビンの生態やそれに由来する目的の真相も憶測可能な程度で最低限、ハリウー的な虚仮威しめいた恐怖演出も最低限と──104分というランタイムに無駄な間延びがなく、話運びも御都合的な側面があるとはいえ洗練されている。

恐怖に晒されるのは同じ人間であると、極力それ以上の感情移入の余地を挟まない。登場人物の人間的魅力を持たせない作りとして割り切った形なのも好感触で、この数奇な遭遇が齎す恐怖を俊敏に纏めるべく削ぎ落とすべき物は削ぎ落とすという作りが好きです。

とはいえ宇宙飛行士達が対立するカルビンの脅威性の存在感の明示に抜かりはなく、およそ宇宙空間で味わいたくない死に方展覧会の様相を呈する襲撃場面は愉快で、進化の末に”顔”を帯びて類型的な敵対存在の表象を得てしまう事を除けば満足の挙動である。

”80億人のバカがいるとこになんか戻りたくない”

知性の象徴たる宇宙飛行士の一人がそんな台詞を口にするが、
知性ある存在として問題に最善手を打つも、空回り、理解の及ばない未知の存在カルビンに暴力的に命を剥奪される様には人間が獣であることを思い起こさせる不条理さが伴う。奇声を上げ、踠き苦しみ、断末魔を上げる他ない姿はなかなかに痛快無比だ。

類型的なB級映画のようで、
ジェイク・ジレンホール,レベッカ・ファーガソン,真田広之,ライアン・レイノルズなどの豪華俳優が出演しているのも特徴で、スクリーン上でそのような無様な死に様を滅多に晒さない俳優が抵抗虚しく命を散らしていくのは物珍しく、そうした意味での負のカタルシスもあるのだろう。

特徴といえば、
宇宙基地を舞台としたSF映画ながら本作はグリーンスクリーンをほぼ使用せず、ISSのセットを実寸大に製作した上で撮影している規模に見合わない豪奢さがあり、非ブロックバスター映画ながら無重力での人物や飛来物の挙動への拘りもよくよく見られる凝りぶりでそうした点も含めてやや過小評価されているようにも思える。

あとは、そうだな、ラストシーンがとてもいい。
あの悲鳴とそれに伴うシチュエーションには突き抜けたシニカルさが感じられるので、そこまでやってくれるならと、本作の後味は比較的爽やかだった。
都部ななみ

都部ななみ