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THE NET 網に囚われた男の8823のネタバレレビュー・内容・結末

THE NET 網に囚われた男(2016年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

北朝鮮の漁師が船の網が絡まって韓国との境界線を超えてしまってひどい目に合う話。
キムギドクにしてはわかりやすい&エログロ少なめだった。はじめの方の船のところの係員?の「国境越えちゃったらどうする?」的な会話とか死亡フラグすぎ。
主人公もなかなか良い奴(自殺した見ず知らずの中国スパイの伝言をわざわざ伝えに行ってあげるし、風俗嬢助けてあげるし)だったけど、ジヌ同志イケメンで唯一の救いだった。
ジヌ同志の上司の嫌な奴、お偉いさんに止められても主人公をスパイに仕立て上げるためには手段は選ばないし、すっごい嫌な奴なんだけど、きっと元は優しい人だったんだろうな。寝てるジヌ同志にコートかけてあげてたし。朝鮮戦争で家族を亡くして、感情を向ける矛先がなくて容疑者達をはけ口にしているのかな、って思うと100%嫌な奴とは思えなかった。嫌な奴だったけど。ていうか韓国の警察ってどの映画でもずさんな操作と嘘が蔓延ってるけど実際もこんな感じなんですかね…?上司も口だけ野郎でいいかげんだし。
主人公をソウルの繁華街に置き去りにするジヌ同志は本当に可哀想だったし、その後暫く眼を開けずにジヌ同志を探す主人公はピュアというか、知り合って間もない敵対国の警察をよくそこまで信じられるな…って思わなくもなかったけど切なかった。当たり屋的な軽奴のやつらのせいで眼を開けちゃったけど、突然あんなところに来たらいろいろ見て回るのは必然というか。それでも彼が見ていたものは、子供のための熊のぬいぐるみや、食べられるもの・使えるものを捨ててしまう現状、豊かなはずなのに売春しないと生活できない人がいるっていう側面だったわけで。街のきらびやかさとか、うわべだけの豊かさを観る人なら、警察の思惑どおりそのまま亡命したんだろうけど、主人公はそうじゃなかった。主人公が戻ってくると信じて待ってたジヌ同志と主人公の会話が良かった。警官と容疑者の関係性じゃなくなってた。ジヌ同志のおじいちゃんに似ている、とか、祖国統一したら会おう!とか。
そのあと警察に戻って嫌な奴にまんまと騙されて、自身がスパイだっていう書面にサインしちゃって(まあそうなるわな、って思ったけど)自殺を試みるけどジヌ同志の発見によりなんとか一命を取り留め、同じくらいのタイミングでマスコミに警察の悪事がばれて、帰国の流れに。このままハッピーエンドでは…?とならないのがキムギドク。あとここで嫌な奴が国歌を絶唱するんだけど、これぞ狂気!って感じで良かった。ある意味この人もとらわれた人であるわけだし。家族への思いって点では、主人公もこいつも共通しているのに、ここまですれ違うのかって思うと、38度線の溝ってそう簡単に埋まるものじゃないよなあ。
そのあとの、北朝鮮と韓国のメディア対決!的なテレビのやりとりはシュールだった。公共の電波であれやるんかい。スパイにならないか、亡命しないか、との執拗な誘いを最後まで断って、市民からの贈り物も受け取らず(貰った服着て寝てたけど、これじゃない感半端なかった。)、警察が支給してくれた洋服も全部脱いで(パンツは…?)、修理された舟で北朝鮮に戻る主人公…ここからがキムギドクの本領発揮だった。
主人公、良い人なのが故か欲が出たかはわからないけど、ジヌ同志が贈り物を換金してくれたお金を飲み込んでたのはそりゃあアウトですわ。舟に乗るときに熊のぬいぐるみを受け取ってたのも、絶対なんか言われるな…と思ってたら案の定。ていうか主人公も警察もめっちゃウンコさわってるしその手で殴るなよ…
自分を守ってくれる・受け入れてくれると思っていた国は、韓国と同じように、暴力・何度も陳述書書かせる等々の圧力をかける。それに家族にはなかなか会わせてくれない。ぬいぐるみで殴られるシーンは灰皿で殴られるシーンよりきつかったなあ。
警察はウンコの金を懐に入れて満足したのか、主人公は自宅に帰れたものの、家族が全然嬉しそうな顔してない。ここが一番キツイ。奥さんも疲れ切ってたんだろうし、身体の傷から暴力も振るわれていたっぽい。イ・ウンウ、おっぱい素晴らしすぎ。あとここは解説読んでわかったんだけど、EDになってた?らしい。わかんなかった。
朝、いつものように漁にでかけたら、「許可が降りてない」とのこと。仕事も家族も尊厳も奪われたら、そりゃやけになるよな…制止を振り切って漁に出たところで係員に射殺されて、最後、家には主人公が直したぬいぐるみが。でも娘は古い汚いぬいぐるみを抱えて終了。
観る前は邦題ダサすぎ、とか思ってたけど、これはそう名付けるしかないわ、って思った。全財産である舟をあの瞬間に手放せる人はなかなかいないと思うけど、失ったものがあまりにも多すぎた。ジヌ同志との再会が果たせないのと、真実を知らずに待っているであろうジヌ同志のことを考えるとやり切れない。
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